天国は待ってくれる

1995/04/30 早稲田松竹
弟の婚約者を奪ってしまった男が人生を振り返る。
老優ドン・アメチーの若い頃の二枚目ぶり。by K. Hattori



 当然モノクロ映画だと思っていたら、鮮やかなカラーだったのにまずびっくり。流れているテーマ曲に聞き覚えがあると思ったら、なんだ『ジョルスン物語』でも使っていた曲ですね。

 主演は『コリーナ・コリーナ』が遺作になったドン・アメチー。まだ若いアメチーが老けメイクの老人役で登場し、自分の過去を回想するというスタイルの映画です。ところが、僕がアメチーを知っているのは『コクーン』以降の〈本物の老人〉になってからのアメチーですから、ついつい近年のナチュラルな老優ぶりと比較してしまい、なんだか不思議なことになってしまいました。

 それにしても、ドン・アメチーという人は姿勢のいい二枚目だったんですねぇ。フィルモグラフィを見ると出演作のほとんどは30年代40年代に集中していますから、まぁ戦前の俳優と言っていいのでしょう。『コクーン』を観て、淀川長治さんがヨダレを流さんばかりになる気持ちもわかろうというものです。ま、僕は相手役のグエン・バードンにヨダレが出ますけどね。

 そうそう、グエン・バードンで思い出したけど、彼女が主演した『くたばれヤンキーズ!』に登場する魔女の部屋の雰囲気ってのは、この映画の閻魔大王のオフィスに似ていますね。へんに清潔で、チリひとつ落ちていない感じがします。ぜんぜん生活臭がない。それでいて、みょうにリアルなんですね。もろにセットなんですが、いい味が出ています。こういうセットを作る美術スタッフは偉い。

 映画はベロンベロンに甘くノスタルジックな人生賛歌なんだけど、ひとつひとつのエピソードがよくできていて好感が持てます。いとこの婚約者である女性をそうと知らずに本屋でナンパするくだりから、婚約披露パーティーから二人が手に手を取って駆け落ちするところまでを、映画はドラマチックに盛り上げる。おじいさんが若い二人に金を届けさせるのは、わかっていてもホロリと来ますね。本屋のくだりは終盤の伏線になっていて、書斎の本棚からするりと「夫を幸福にする方法」が飛び出すところでは、思わず涙ぐむこと必定です。

 現代の観客である僕の目から見ると、なぜ主人公が「自分は地獄行きがふさわしい」と思いこんでいるのか、そのあたりがピンと来ない。メリーウィドウの曲も最初と最後でキーになるはずなのに、映画の中でそれをめぐるエピソードが不発になっているのは残念。奥さんが家を出る理由もよくわからなかった。黒澤の『赤ひげ』みたいなものかしら……。

 総じて砂糖菓子のように甘いだけの映画だけれど、大人の味覚に耐えられる上品な作品に仕上げた監督の演出手腕は見事。いま作ると白々しくて目も当てられない、アメリカが幸せだった時代の映画です。



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