ドラゴン・イン

1995/02/24 新宿シネパトス
善玉悪玉悪漢好漢入り乱れての大剣戟大会にメロメロになれる。
とにかくサービス満点の演出にホクホク。by K. Hattori


 策謀をめぐらし、権勢を思いのままにする悪徳宦官。その悪政を皇帝に直訴しようとする、正義感の強い将軍。将軍の直訴は宦官一派に事前に阻止され、将軍は処刑される。信望の厚かった将軍の意志を軍が継ぐことを恐れた悪者一味は、将軍の副官をおびき寄せるため、あえて将軍の幼い息子と娘を殺さず流刑にする。流刑地までの道中に副官達が現れるのを、膨大な数の軍隊が待ちかまえる。そんな警備の間隙をついて、まんまと姉弟の救出に成功する副官一味。だが、そこに悪宦官が目指す軍副官本人の姿はない。副官が救出組に合流するとしたら、それは国境そばの宿場・龍門宿(ドラゴン・イン)。

 導入部から騎馬による大スタント・シーンを見せる気前の良さ。見渡す限りの砂漠を、騎馬群がもうもうと砂煙をあげながら猛然と突き進む描写など、往年の黒沢時代劇もかくやという大迫力。黒衣の刺客軍団がくり出す新兵器の数々も、実現可能かどうかはともかくとして、破壊力は凄まじい。捕虜や囚人を標的にして兵器の破壊力を試験するなど、ひと目で悪党とわかる描写も親切だ。

 さてさて、タイトルにもなっている龍門宿が、善玉悪玉あいまみえる戦いの中心になるわけだが、この辺境の宿場もまた、ただの宿ではない。若い女主人は宿に集う男達を色香で篭絡し、木の葉のような手裏剣で殺害、あげく肉まんに加工して客に供するというとんでもないことをしている。宿の地下にある食肉(?)加工場は、トビー・フーパーの映画『悪魔のいけにえ』さながらの修羅場である。このおっそろしく、でもかわいい女主人が、仲間と合流するため宿に到着した軍の副官に一目惚れ。しかし、副官は救出組にいる女剣士と相思相愛のなか。こうして、辺境の小さな宿場を舞台に、善玉悪玉虚々実々の駆け引きに加え、男と女のハードな三角関係が入り乱れる。見どころはアクションだけど、お話の方もかなりこなれていて、いい脚本だと思います。

 最初から最後まで、時ところをかまわず延々繰り広げられるアクションシーンの数々にメロメロ。広い場所では広いなりに、狭い場所では狭いなりに、道具立てや状況に応じたアクションを組み立て、テンポよく画面に展開する手腕には舌を巻く。浴室で女ふたりが互いの衣服を奪い合うなどという、ちょっとよそでは見られないシーンを、見せ場たっぷりの一大活劇に構成するあたりでは、おそらく劇場の観客全員がニタニタ笑っていたことだろう。

 血生臭いシーンもあるけれど、殺陣は全般に舞のような美しさ。こうしたアクションの見せ方って、香港・中国映画以外にはちょっと見られない技法ですね。京劇の伝統なのかしら。映画『さらば我が愛/覇王別姫』には、舞台の上で猛スピードのとんぼを切ってみせる京劇の描写がありましたね。


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