お嫁においで

1995/02/04 大井武蔵野館
加山雄三の同名主題歌がそのまま映像化される可笑しさ。
加山雄三と黒沢年男が爽やかな青春してる。by K. Hattori


 加山雄三主演の青春モノ。作られたのは1966年(あ、僕が生まれた年だ)。あいにく僕は加山雄三の若大将シリーズとは無縁だったので、この作品が彼のフィルモグラフィー中のどういった位置づけになっているのかよくわからん。

 軽薄な風俗描写に流れず、淡々と登場人物たちの心情描写を積み重ねて行く演出には好感が持てる。ひとつひとつの出来事を真正面から描くこうした態度は、時には生真面目すぎて面白味に欠けるところもなくはないが、これはこれで、登場人物達の生真面目さにマッチしていてよろしい。

 社長の息子で造船技師の加山雄三と、タクシー運転で生計を立てる黒沢年男が、ひとりの女性をめぐって恋の鞘当てを繰り広げるという単純な話だ。三人のどれかに肩入れすることなく、過不足のないエピソード配置で物語を進めて行く構成は見事。松山善三の脚本は、所々にユーモアをはさみながら、若者達の交流を手際よくまとめている。

 製作者達に風俗を描くつもりは毛頭なかったのだろうが、それでもやはり、登場する生活の描写が面白くてしょうがない。記憶の中にかすかに残っている風景、そして現代日本からすっかり失われてしまった光景を映画の中から見いだして、ヘンに喜んだりするのは〈映画〉を観る上では邪道かもしれないが、ま、面白いんだからしょうがないわなぁ。

 当時の生活感覚や金銭感覚がわからないと、なかなか物語の中に入って行きづらい映画だと思うので、コトはなおさらだ。金持ちと貧乏人という色分けが一応わかればそれで構わないのだろうが、その差が外国映画に出てくる富豪と庶民のように、歴然としていないのだね。加山雄三はお坊っちゃんお坊っちゃんしているけれど、あまり羽振りが良さそうには見えないしなぁ。これは、加山のおじいさん役が笠智衆だから、余計にそう思ってしまうのかもしれない。小津映画の中でも、笠智衆はどことなく小市民的だものね。(笠はこの映画でも、刑事か探偵と勘違いされるんだよなぁ。)

  幸福はお金じゃ買えない、本当の幸福は別のところにあるというのがこの映画のテーマだけれど、この映画を〈今〉観ると、余計にこのテーマが浮かび上がって来るんだなぁ。当時は夢のように見えたであろう加山家の生活を、僕たちの生活は既に凌いでいるじゃないか。あの家の中って現代の目で見ると、何となく安っぽくて、貧乏くさいよね。

 映画の中で、沢井桂子は加山ではなく黒沢を選ぶのだが、この選択の理由が僕にはいまいち釈然としなかった。展開からしてああなるのはわかるんだけど、積極的にああいう選択になる動機づけが、やや希薄なんじゃないかしらねぇ。このあたり、もう一歩踏み込んだエピソードがひとつ欲しかった。


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