愛・アマチュア

1995/02/03 シャンテ・シネ2
一部にファンの多いハル・ハートリーの新作。僕も好きです。
魅力はへんな脱力感でしょうか。by K. Hattori


 物語は一応犯罪がらみなんだけど、どうやらこの映画の監督は、そうした方面でのスリルやサスペンスを描こうとしているわけではないらしい。登場人物達はそれぞれ深刻な人生の岐路に立っているにもかかわらず、いたって呑気に日常を営んでいる。いや、これは日常なんかじゃない。ここに現れる人物達の、現実からの浮き上がり具合って、いったい何なんだろう。肉体性が希薄なのかなぁ。

 これは『シンプル・メン』や『トラスト・ミー』でも感じられた、ハル・ハートリーという作家の体臭のようなものだ。物語の中で、登場人物がなんとなくゴロゴロと異物感を持っていて、これは映画が終わるまで変わらない。こうした人物達が物語の中に登場したとき、普通はそれで映画の雰囲気が壊れてしまうと思うんだけど、ハートリーの映画ではそれが逆に独特のトーンになっている。

 登場人物達はみんなどこか滑稽。みんな真剣なんだろうけど、行動がちょっとずれている。それがますますひとを滑稽に見せる。記憶喪失でも悠然としている男。もと修道女だが、今は売れないポルノ小説を書いている女。ヒモのような男から逃れるために、彼を窓から突き落とした女。目の前の人間に、やたらと感情移入してしまう婦人警官。むやみに拳銃を乱射する男。身ぎれで携帯電話にうるさい殺し屋。死体を見つけても、ヘンに落ち着いているアベック。若き日の夢を語るポルノ雑誌編集者。間違って無関係な男を射殺してしまう警官。

 とにかく、人物達が徹底的にかみ合わない。すれ違ってばかりいる。思うようにならない。どこまでもちぐはぐで、行動がバラバラ。同じような人間関係は『シンプル・メン』や『トラスト・ミー』でも見られるけれど、この『愛・アマチュア』では物語の展開上それが顕著になっている。

 プロットは犯罪映画っぽいのに、ぜんぜんサスペンスが盛り上がらないのは、登場人物達がみんな悠然として、自分たちの身の危険を感じていないからだろう。わずかに駅のシーンでアクション映画風の組立を見せるが、わざわざあそこまでスローモーな演出を施して、サスペンスの味を殺している。これは、そのあとに続く倉庫での拷問シーンでも同じ。あのシーンにはユーモアさえ感じるが、とにかく、徹底したアンチ・クライマックス指向なんだな。

 とっても清潔で静かな雰囲気の映画だと僕は思ったんだけど、そうした雰囲気とは裏腹に、映画の内容はノイズに満ちあふれている。プロットを殺したことで逆に浮かび上がってくる、何とも表現のしようがない人間の姿。人間の孤独さと、それに気づきながらも何もできないもどかしさ。作り手の人間に対する不信と、それでも人間とコミュニケートしたいという気持が、映画に満ちているような気がする。


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