君も出世ができる

1995/01/29 大井武蔵野館
フランキー堺と高島忠夫主演の本格的和製ミュージカルの傑作。
スケールとダイナミズムみなぎる傑作。曲もいい。by K. Hattori


 この新鮮さ。このみずみずしさ。この楽しさはなんだ。全編にみなぎるエネルギッシュな躍動感。リズム、音楽、ダンス。フランキー堺が、高島忠夫が、雪村いづみが、中尾ミエが、歌う、踊る、恋をする。素晴らしい日本製ミュージカル映画の傑作だ。

 オープニングの朝の風景は、ちょっと『巴里のアメリカ人』に似ていなくもないが、あれより幾十倍も騒々しい。フランキー堺がベッドから飛び起きるや、あのずんぐりした身体をマリのようにはずませながら歌い踊るのだから、のっけからすごくパワフルな展開。ところがこれはほんの序の口なのだ。

 社長のアメリカ出張を羽田まで送る、社員達のパフォーマンスも強烈だが、なんのまだまだ、お楽しみはこれからだ。アメリカから社長が娘を連れて帰ってくると、この娘(雪村いづみ)が職場改善のために長演説。もちろんこれも歌。あれよあれよと言う間に「アメリカでは」の大プロダクション・ナンバーが幕を切って落とされる。これがじつに楽しい。机やイスといったオフィスのインテリアをフルに活用して、縦横無尽のスペクタクル。その中を走り回るフランキー堺と、すました顔で歌う雪村。

 モーレツ社員型のフランキー堺と、マイペースでちょっとぼんやりした高島忠夫のコンビがなかなかおかしい。雪村いづみも、ここぞとばかりに歌いまくる。そして、フランキーと高島が行き着けの居酒屋で働く中尾ミエ。彼女のなんという可愛らしさ。

 アメリカ帰りの合理主義者・雪村が、その路線に忠実なフランキーではなく、日本的な曖昧さを残す高島にぐんぐん惹かれて行く様子が、なかなか上手く描けていると思う。高島に土産物を手渡されて嬉しいくせに、それでも一言「ちょっと無駄ね」と付け加えてしまう生真面目な雪村。彼女と高島が、ホテルの庭で「アメリカでは」と「タクラマカン」を二重唱するだけで、ふたりが恋に落ちたことを観客に納得させてしまうんだから、ミュージカルというものは不思議なものだ。

 オフィスで歌い踊る「アメリカでは」もいいが、この映画のハイライトは、仕事上の失敗を問われたフランキーが酒場で荒れるあたりから。なぜか突然現れる植木等。意気投合したふたりが、シネスコ画面の左右にアップで映し出されるのは、コメディの東西両雄顔合わせという感じで、なかなかゴージャスな映像だ。このあと鬱屈したサラリーマンのエネルギーが一気に爆発し、夜の銀座を数百人のサラリーマンが歌い踊るシーンになると、なぜか植木の姿は見あたらなくなってしまう。酒場を出たときはいたから、どこかで何も言わずに帰ったに違いない。

 それにしても、この大群舞シーンの迫力。M・ジャクソンの「スリラー」を50倍にスケールアップしたものだと考えてくれ。すごいぞ〜。こわいぞ〜。


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