ジェルミナル

1994/12/03 渋谷シネパレス
炭坑夫の劣悪な労働環境と挫折する労働争議を描くジメジメ暗い大作。
ユーモラスな場面もあるが、残酷な場面も多い。by K. Hattori


 むかし見た歴史の教科書に、炭坑で働く少年労働者の挿し絵があった。要は「むかしの労働者はこのように劣悪な環境で働かされた」という実例として、それが使われていたのだろう。でも、そんな薄っぺらな挿し絵より、この映画の方が何倍も強烈。食うや食わずの労働者たちが、すき腹を抱えながら坑道に潜っていく描写には唖然とした。これは紛れもなく、今世紀初頭のフランスにあった出来事を映している。もちろんフィクションだが、似たような状況や事件は実際にあったに違いない。アル・ジョルスンが顔を黒く塗った独特のスタイルを売り物にブロードウェイで歌ったり踊ったりしている同じ頃、ススで顔をジョルスン風に染めた労働者たちが、せまい坑道で石炭を掘っていたのですねぇ。

 映画に金がかかっているのはよくわかる。炭坑や坑道のセットだけでも、おそらく膨大な費用がかかっていることでしょう。原作をここまでコンパクトにまとめるのにも、多くの労力を費やしたと思う。でも、この映画はいったい観客になにを伝えようとしているのか。この映画を〈今〉作る必然性は、どこにあるのか。ここまで金をかけて、ただただ観客を憂鬱な気分にさせることはないんじゃないのか。僕はそう感じました。

 フランス映画らしく、お芝居は濃厚で見応えがあります。でも、そのお芝居がどうも薄味の演出。物語には大きな起伏があって、本当なら怒涛のごとくクライマックスまで盛り上がるはずなのに、なんだかボンヤリとした印象しか与えないんだ。

 監督のクロード・ベリは『愛と宿命の泉』でも、まったく同じような印象を僕に与えた人でした。『愛と宿命の泉』にはエマニュエル・ベアールのオール・ヌードという見せ場(?)があったけど、それに対応するものは『ジェルミナル』の場合、ジェラール・ドパルデューのオール・ヌードかな……。

 これが監督の資質なのかもしれないけれど、この映画ってなんだか、むかしの炭坑労働を再現しただけで息切れしてしまっているような気もする。労働者たちの生活描写は、微に入り細に入り描かれていて、これはこれで面白いんだけど、それだけでは困る。どうせなら、映画館から出てきたとたん、絶望して死にたくなってしまうぐらい憂鬱にさせてほしかった。なんとも中途半端でたまらない。

 壮大なセットの中に、役者のお芝居が埋没している映画です。書き割りは一流だけど、人物まで書き割りじゃあドラマにならないのだよ。役者ひとりひとりはがんばっているだけに、残念な作品だ。

 立派な麺とスープがありながら、その上に乗っている具に難があるラーメンのような映画だった。これで具にもうひと工夫あれば、名人なんだけどなぁ。


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