居酒屋ゆうれい

1994/11/21
話の筋立てより、物語の舞台になっている居酒屋に惚れた。
こんな居酒屋が近所にあったら通い詰めるのになぁ。by K. Hattori


 落語の人情話みたいな味わいがある、思いのほか面白かった一品。本当は時間をこの半分に縮めて、エピソードも3分の2ぐらいにしぼり、ぐっとコンパクトにまとめるべき素材のような気がするけど、商業映画じゃそうもいくまい。結果としてはやたらと物語に脱線の多い、ダラダラした映画になってしまったね。でも、嫌いじゃないんだよなぁ、このダラダラが。むしろこのゆったりしたペースが、この映画の魅力かもしれない。

 萩原健一演ずる居酒屋の亭主が長く連れ添った女房(室井滋)を亡くし、山口智子演ずる後添えをもらったところ、そこに前の女房が幽霊になって現れるというのが『居酒屋ゆうれい』という物語の本筋。これに近所の気のいい常連客がからんでくるんだけど、問題はここで幽霊譚と常連客のエピソードが分裂してしまうことでしょうね。最後に現れる野球賭博の話が、かろうじて幽霊の話につながって来る程度なんだなぁ。このあたりは脚本の問題じゃないかな。カウンターの中の萩原と山口が、室井の幽霊にどこかビクビクしているようなエピソードがひとつ入ると、この物語はずいぶん違ってくると思うんだけどなぁ。なに、最初の一回だけでいいんです。幽霊と生きているふたりが和解したあとは、普段どおりの居酒屋でいいわけだしね。

 室井幽霊が山口にとりついたときは、室井の声を常に山口にあてておくべきでしょうね。最後の別れのシーンでは使っていた演出だけど、これを全編に使った方が、観客にはわかりやすいと思う。

 あともうひとつ注文。山口智子が出ていったあと、どのぐらいの時間があいてから戻ってきたのか、その経過がわかりづらい。山口は同じ服を着たままだから、そんなに時間があいたとは思えないけれど、萩原のやきもき具合や光線の具合から、少なくとも何日かはたっているはず。この間の山口の心の動きが、映画からはわかりづらいんだなぁ。山口の前夫が、ろくでなしながらも女を魅了する男だということを、豊川悦司という配役で納得させようという魂胆なのかもしれないけれど、これはちょっと弱い。ほんのちょっとでいい。数行でいいから、きちんとした説明が欲しかったぞ。

 それにしても、この映画に出てくる居酒屋の、なんと素敵なことでしょう。コの字型のカウンター席と、ぎりぎり10人も入ればいっぱいの小上がりがひとつ。店の半分は常連で、大きな丸鍋には煮込みがフツフツと煮えている。サントリーしか置いていないのは、スポンサーの関係でしょうがないとしても、肴はいつも美味しいものがそろっているに違いない。こんな店が近所にあったら、僕は絶対いりびたっちゃうなぁ。映画を観たあと、フラフラとどこかの居酒屋に入りたくなる映画だった。


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