スピード

1994/11/19
バスに仕掛けられた爆弾に翻弄される乗客と警察。
最後の最後まで息の抜けない娯楽活劇。by K. Hattori


 すごいすごいと話には聞いていたが、ここまですごいとは思わなかった。脚本・演出・役者と、三拍子そろったバランスの良さ。オープニングのエレベーターから最後の地下鉄まで、ノンストップでぐいぐい迫ってくるスリルの連続。久しぶりに手に汗握る、正統派のアクション映画に出会った気がする。『トゥルーライズ』も素晴らしかったけど、あれは予算規模にものをいわせた壮大な見せ物、力まかせの強引な展開に翻弄されるのを楽しむ映画だった。『スピード』は違う。特撮全盛でアクションに食傷気味の観客に向かって、真っ正面から正攻法で挑んだアクション映画だ。しかもそれが成功している。

 監督のヤン・デ・ボンが『ダイハード』の撮影監督をしていたということもあるが、等身大の主人公が身の丈を越えた大事件に巻き込まれるという点でも、この映画と『ダイハード』は比較されると思う。しかし『スピード』に比べると『ダイハード』にはまだ遊びがあった、物語に緩急があった。なにしろ『スピード』は始めから最後まで、テンションあがりっ放しなのだ。ぎりぎりに張りつめた緊張感が、一瞬もゆるむことなく最後まで持続する。このエネルギーには参った。極度の緊張感は観ている者の脳を麻痺させる。頭の芯がしびれてきた頃に、ごくわずか緊張の手綱を緩める演出は心憎いばかり。

 へんにひねったドンデン返しなど用意せず、ひたすら真っ直ぐ進む物語は結論が見え見え。その見え見えのラストに向かって全力疾走する姿が、いかにも若々しくてエネルギッシュなのだなぁ。『ダイハード』には一流の芸があった。タランティーノなんて、玄人芸の極致。『スピード』はそうした芸をひけらかすことをあえて捨てて、がむしゃらに突っ走りまくる。途中で息継ぎしていないんだから、これはこれでひとつの芸風かもしれないけどね。

 主演のキアヌ・リーブスは、この映画で『リトル・ブッダ』のふやけたイメージを払拭した。『ハートブルー』の頃の精悍なアクションスターに戻ったのはうれしい。彼は肉体を誇示する汗くさいキャラクターとは無縁だし、清潔な感じには好感が持てる。これからも骨太な男っぽい役を演じて欲しい。

 サンドラ・ブロックは、『デモリションマン』のお飾りキャラから、堂々たる看板女優に昇格。決して美人ではないけれど、男にこびないぞと主張するあの表情が凛々しくて素敵。この映画は彼女の出世作になることでしょう。今後が楽しみ。

 最近のデニス・ホッパーは、安心してみられる悪役になってしまったなぁ。別に不満はないんだけど、他のキャスティングが考えられても面白かったかもね。爆弾魔としては、『ブローン・アウェイ/復讐の序曲』のトミー・リー・ジョーンズの方が、何倍もよかったと思う。まぁこれは好みの問題だね。


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