ハードロック・ハイジャック

1994/11/15 ニュー東宝シネマ2
売れないバンドの3人組が、なぜかラジオ局で人質とって篭城。
もっと笑える話のはずなのに演出がヌルイんだよなぁ。by K. Hattori


 全編クスクス笑いながら観ていた映画だけれど、あいにくこのクスクス笑いは爆笑に結びつかなかった。売れないバンドがいかにして売り出すかを描いたコメディなんだけど、バンドの連中が全然それらしく見えないんだよなぁ。DJ役のジョー・マンターニャも、どう見たってハードロック狂には見えないし、ラジオ局長の悪漢ぶりもいまひとつ。主人公チャズを演じたブレンダン・フレイザーの甘いマスクは、彼の坊ちゃん育ちを如実に語ってしまい、クライマックスの〈衝撃の告白〉にも意外性の落差が少ない。「ふむふむ。いかにもそうだろうなぁ」って感じなのだ。中心に近い人物でおかしかったのは、心優しいドラマーのピップを演じたアダム・サンドラーがはまっていたことぐらいかな。

 マイケル・リーマン監督の映画には『ハドソン・ホーク』ぐらいしか縁がなかったんだけど、面白さでは完全に『ハドソン・ホーク』の方が上だな。ナンセンス具合もキャスティングも、マンガチックに徹底していて、あれはなかなかの快作だった。あれは実写版「ルパン三世」ですなぁ。まぁ、監督が同じでも、脚本が変わればそれまでだけどさ。

 ラジオを通じて流れてしまう主人公たちのメッセージが若者たちの共感を呼んで、ラジオ局のまわりに次々と人が集まってくるという部分があるんだけど、この部分に作り手側の共感が見られないんだよなぁ。集まってくる若者が単なる野次馬にしか見えなくて、ロックという音楽に対する思い入れがちっとも伝わってこない。結局チャズやDJイアンの思いばかりが空回りしていて、振幅を増しながら外部に広がっていくことがないんだなぁ。ドタバタばかりが先行して、主人公たちがいつの間にかヒーローになってゆく過程が描けていないような気がする。要するに、ラジオ局の内部と外部が連動していないのだ。ラジオ局乗っ取りの模様が外部に中継されて、外は大混乱というアイディアはすごく面白いのに、それが生かされていないんだよね。じつに残念。

 まぁ大騒ぎするような内容の映画でもないんだけど、やりようによっちゃあと20倍ぐらいは大笑いできそうな素材だから、いろいろと言いたくもなるのだね。だけどさ、このままでもこの映画ってすっごく楽しいんだよね。カリカチュアに徹していたSWAT隊長や痔持ちのラジオ局重役、一度は脱出したものの再び人質志願する頭の軽そうなラジオ局職員、ラップを基準にしたピップの黒人観、翻弄される哀れなデモテープ。大作でも傑作でもなし、佳作とも言えない水準のデキでしかないんだけど、まぁこんな映画もいいよ。ビデオでぼんやり見るためにあるような映画かもしんないけどね。

 そうそう、最後が名作『ブルース・ブラザース』とまったく同じオチというのはいただけないぞぉ。


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