フランケンウィニー

1994/10/25
ティム・バートンがディズニーで撮った監督デビュー作。
栴檀は双葉より芳し。ここにバートンの全てがある。by K. Hattori


 新作『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』の添物的に上映されている、ティム・バートン10年前の劇映画デビュー作。愛らしいファンタジーの傑作『シザーハンズ』の原型ともいうべき小品です。あいにく手元に資料がないので主人公の少年を演じた俳優の名前がわかりませんが、少年の両親を演じたのはシェリー・デュバルとダニエル・スターン。スターンは最近クセのあるエキセントリックな役柄ばかりが目立ちますが、かつては健全な一家の主人を演じていたのですねぇ。(子供は風変わりだけど……。)この父親が『ホーム・アローン』の泥棒の片割れ、『シティ・スリッカーズ』の生活破綻中年、『がんばれルーキー』のいかれたコーチと同一人物なんだから、月日というものは魔物です。

 艶やかでややコントラストの強いモノクロームの映像が、センチでノスタルジックなこの物語にいかにふさわしいことか。考えてみれば、ティム・バートンの『バットマン』シリーズも『シザーハンズ』も、カラー作品ながらモノトーンの映像が効果的な映画でした。タイトルからもわかるとおり、これはあからさまに『フランケンシュタイン』のパロディ、もしくはオマージュになっている作品。少年が事故で死んだ愛犬を蘇生させるという話ですが、この少年の名前がフランケンシュタインというのが泣かせます。

 暮夜ひそかに墓場をあばき、巨大な実験室と化した子供部屋で犬が甦るシーンの美しさったらありません。雷鳴と黒雲、白衣の少年、部屋に飛び散る電気の火花、不気味な光を放つ器具の数々。これに悲壮感ただよう音楽がかぶさり、幻想的な名場面を作り上げています。

甦った犬は近所の人々に受け入れられず、あらぬ誤解から逆に追われることになるのですが、このあたりの展開はまるっきり『シザーハンズ』のままです。犬は少年を助けて再び命を落としますが、これを人々が再び甦らせるラストシーンには涙が出そうになりました。普通に考えればギャグにしかならない筋立てを、優しさにあふれる素敵な短編に仕上げたティム・バートンの感性には舌を巻くばかりです。

 バートン監督の作品では『シザーハンズ』と『バットマン・リターンズ』が大好きという僕にとって、この『フランケンウィニー』も忘れられぬ印象を残す作品になりました。これらは皆、胸を締めつけるような切ない感情を喚起する映画です。残酷でグロテスクだけれど、きわめて甘美。逆にすごく楽しいはずのシーンなのに、なぜか感傷的な気分にさせられます。こうした両義的な描写はこの監督の得意技ですが、心が千々に乱れるこの楽しく切ない気持ちは何かに似ています。それはひょっとしたら、〈恋〉に一番近いものかもしれません。

 予想もしない、思わぬ収穫。僕はこの短編映画1本だけでも、すっかり入場料の元を取った気分になれました。


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