ブローン・アウェイ
復讐の序曲

1994/10/19
トミー・リー・ジョーンズが偏執狂の爆弾魔を熱演して恐いぐらいはまった。
ここまでやられるとジェフ・ブリッジスの出番はない。by K. Hattori


 無精ひげが似合う俳優No.1のジェフ・ブリッジスと、『沈黙の戦艦』『依頼人』ですっかりコミカルな演技に開眼してしまったアカデミー俳優トミー・リー・ジョーンズの息詰まる対決を描くサスペンスアクション。ブリッジスとジョーンズの役柄は、かつて共にアイルランド独立運動のために戦った闘志というもの。ふたりは幼い頃から、まるでプラモデルを組み立てるように爆弾作りに熱中。しかしある事件をきっかけにふたりは仲違いし、ジョーンズは逮捕され、ブリッジスは名を変えてアメリカに逃れる。

 それから20数年の月日が流れ、ボストンの警察署で爆発物処理のエキスパートとして働くブリッジス。刑務所を脱獄したジョーンズが、復讐のために爆発物処理班の隊員をターゲットにした連続爆破事件を起こすというのが今回の物語だ。処理班の新入り隊員にフォレスト・ウィテカー。彼は『クライング・ゲーム』でIRAの過激派に捕らえられてさっさと殺されるアメリカ兵を演じており、今回も相手がアイルランドの過激派ときては相性が悪い。童顔のウィテカーとトミー・リー・ジョーンズを比べれば、どちらの格がうえかわかりそうなもの。ウィテカーの命は風前のともしびだ。彼がどこまで命をつなぐかも、今回の映画の見どころでしょう。

 ブリッジスとジョーンズの対決は映画のバックグラウンド。本筋は爆弾テロリストと処理班との攻防にある。奇想天外な起爆装置のアイディアや、その防御装置の仕組みにはいくつか疑問があるものの、映画としては十分に楽しめる。数カ所で見せる大がかりな爆発シーンの迫力も、大画面と大音量の映画館で観ておきたい。最大の見せ場はジョーンズが隠れていた廃船を爆破する大スペクタクル。刻々とせまる大爆発から逃れるために必死に逃げる警官ふたり。やがて起こる爆発。桟橋をまっすぐに逃げながら最後に海に飛び込むのは『トゥルーライズ』でも見せていた演出だが、この映画は人間が飛び込むタイミングがかなり遅い。これは最初から計算してああなったのか、あわや大惨事というスタントシーンだったのかわからないが、爆発が始まっても人間がなかなか桟橋の突端に届かないのにはハラハラさせられた。

 舞台になっているボストンは古くからの港町。今は大学とオーケストラの町だ。映画はこうした町の風景を巧みに画面に取り込みながら、物語をつむいで行く。花火をバックに「1812年」を演奏するボストンポップスのコンサートが最後のハイライト。ドラマ部分に若干弱さを感じるものの、サスペンス描写は定石をふまえて水準をクリアしている。秀逸なのはクローズアップを多用したカメラ。特にカメラをどんどんアップに寄せて、そのまま機械の内部にまで侵入、爆弾の仕組みを見せるなんて、今までに見たことのない映像だった。冒頭にあるMGMのタイトルも、レトロでよろしい。


ホームページ
ホームページへ