あなたに降る夢

1994/10/19 松竹セントラル1
フランク・キャプラ風の心温まる映画を作ろうとしてどこかで失敗した。
出演している役者たちは悪くないんだけどなぁ。by K. Hattori


 物語もエピソードも素敵なのに、なぜかノレなかった映画。僕が疑問に思ったのは、物語の案内役になるエンジェルと名乗る黒人(アイザック・ヘイズ)の存在だ。彼が先回りして映像の解説をすることで、かえって観客は素直に物語の中にはいって行くことができなくなるのではないだろうか。チャーリー(ニコラス・ケイジ)やイボンヌ(ブリジット・フォンダ)のキャラクターは役者の芝居だけで十分に説明できていると思うが、それをエンジェルが解説してしまうことで、ふたりのキャラクターは逆に陳腐で平板なものになったような気がする。言葉はしばしば物事を矮小化してしまうのだ。エンジェルはその後もしばしば物語の要所に登場するが、そのつど僕は多少の幻滅を感じることになりました。

 要するに脚本が悪いということにつきる。人物の役割分担や、エピソードの組立がちぐはぐなのだ。筋立てに齟齬も見えるが、なによりも、小さなエピソードがまとまってひとつの大きな物語を作ることに失敗しているように思える。ラストシーンまで至る必然性がまったく感じられない、寄せ集めただけのアイディアの数々。古い映画からの引用が多いというのは、同行したミキパパさんの指摘だけど、そうしたイイトコドリが映画の中でうまくこなれていないのではないだろうか。豪華な作りだけれど、どこかしまりのない映画でした。全編に流れるスタンダードの名曲も、ちょっと鼻につく。作りたい映画がどんなものかはわかる気がするけど、演出があけすけで僕はちょっと白けてしまったのです。

 アメリカ映画を観るといつも感心するのは、美術スタッフの仕事が素晴らしいところ。この映画はロケーションが多いようですが、それでも主人公たちのアパートなど室内シーンの多くはセット撮影。この映画のスタッフが見せた最高の仕事は、チャーリーとイボンヌが初めて出会うコーヒーショップのセットでしょう。外装の雰囲気といい、内装のくたびれ具合といい、実によくできている。日本映画のセットはしばしば新建材の匂いを感じさせますが、このセットからはコーヒーや厨房で焼くハンバーガーの匂いが漂ってくるようでした。これは駐車場に作ったセットを、SFX技術で摩天楼の谷間に合成したというからオドロキです。

 主演ふたりの魅力については今さらいうまでもないでしょう。ブリジット・フォンダは相変わらず輝いています。『リトル・ブッダ』の母親役もよかったけど、やっぱりまだしばらくは娘役を演じてほしい女優さん。ロージー・ペレスは『ハード・プレイ』や『ナイト・オン・ザ・プラネット』にはちょいと劣るが、船上パーティーシーンのハツラツとした表情は抜群。同僚警官役のウェンデル・ピアーズ、胡散臭い投資家セイモア・カッスル、イボンヌにたかるヒモのような亭主スタンリー・ツッチ、人のいい弁護士レッド・バトンズらが印象に残りました。


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