忠臣蔵外伝四谷怪談

1994/10/11 よみうりホール(試写会)
主人公たちより荻野目慶子と石橋蓮司の強烈な父娘像にくらくらする。
最後の討入シーンは仮面ライダーショーみたい。by K. Hattori


 失敗作だと思う。制作開始直後から、中止だ、いや制作続行だ、監督交代か、秋の公開は無理かなどと憶測を呼んできた、いろいろな意味でも話題作。何とか東宝の『四十七人の刺客』と同日公開にこぎ着けたものの、この内容では勝負以前だろう。

 「東海道四谷怪談」で民谷伊右衛門が赤穂浪人に設定されていたことをカギに、これを忠臣蔵と結びつけるアイディアは悪くなかった。しかしこの映画は話を中途半端に折衷しただけで、ふたつの物語は共に魅力半減。全体としては話の筋も主題もはっきりとしないまま、アイディアだけを披露して終わってしまった。

 最大の欠点は主人公民谷伊右衛門の心の動きが、映画から全く読みとれないこと。貧乏浪人の息子として時には辻斬り強盗で糊口をしのぎながら、なんとか浅野藩に仕官したものの、殿様の刃傷事件からまた浪人に逆戻り。この伊右衛門が果たしてどの程度本気で仇討ちへの参加を考えていたのか。それが伝わらないから、彼の挫折感も伝わらない。また、湯女(ユナ)女郎・お岩とのかりそめの夫婦暮らしの中で、彼がどの程度彼女を愛していたのかもわかりずらい。彼はお岩を裏切ったのか。お岩の方は伊右衛門に裏切られたと感じたのか。この土壇場のやり取りがいかにも説明不足。僕には伊右衛門が冷酷にお岩を裏切ったという風には見えなかったのだが、その結果、お岩が伊右衛門のもとに化けてでる理由も、伊右衛門がお岩の幽霊を恐れる理由もわからずじまいとなってしまった。新妻お梅を斬り捨てた伊右衛門は、清水一学にうながされるまま、内蔵助を斬りにゆく。この時、伊右衛門は本当に大石を斬るつもりだったのだろうか。それとも死にに行ったのだろうか。かように伊右衛門の行動は理解に苦しむものばかりだ。

 欠点の第二は、赤穂浪士たちの使命感や焦燥感が描けていなかったところにある。元禄という時代背景も、まったく説明なしだ。忠臣蔵を背景とした時代劇ではNHKで放送していた「腕におぼえあり」が面白かったが、あのぐらいの芸は見せてほしかった。(原作は藤沢周平の「用心棒日月抄」)

 それにしても驚きかつ辟易したのは、荻野目慶子演ずるお梅だろう。奇妙奇天烈な金切り声を上げながら踊り狂う彼女はかなり怖くて、これではお岩の幽霊の方が何倍も可愛いく見える。彼女の伊右衛門を見る目は恋慕というより妄執で、歪んだ笑みを浮かべる口元とぎらぎら光る目は、彼女の精神状態が尋常ではないことを暗示してみえた。彼女についてまわる石橋蓮司と渡辺えり子もかなり濃かったが、荻野目の迫真の演技には負ける。こんなところでこんな役に才能を使ってどうする、荻野目! 『いつかギラギラする日』でもそうだったが、彼女にやたらとキーキー声を出させたがる深作欣二は、いったい彼女が好きなのか嫌いなのか……。

 謎がまた新たな謎を呼ぶ映画である。


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