パルプ・フィクション

1994/10/02
マニア向けのバイオレンス映画を撮っていたタランティーノが大ブレイク。
1994年度カンヌ国際映画祭グランプリ映画。by K. Hattori


 手品のように巧妙な脚本。印象的で観客をワクワクさせる音楽。くぐもって乾いたタッチの映像。スタイリッシュな暴力描写。皮肉なユーモア。ユーモラスな惨劇。感情を排した冷ややかなスリル。そして、登場人物たちの体臭まで感じさせる、生々しくリアルな台詞。映画はオープニングからエンディングまで猛速度で突っ走るが、その走りは精密機械のように緻密で計算されつくしている。バラバラに見えていた断片が、ピタリとひとつに揃うときの、ぞっとするような快感。下品なまでに面白い、今年最高のアクション映画だ。

 全貌が見える最後の最後まで、観客を釘付けにするこの物語の構成は見事。3つのエピソードが互いに入り組みながら、観客を翻弄し、魅了する。脚本家タランティーノの魅力と力量が十二分に発揮された、百点満点のシナリオだろう。この脚本に、したたるようなムードとディテール満載の映像が加われば、もう怖いものはない。前作『レザボアドッグス』を舞台劇風のアンサンブルに仕上げたタランティーノの演出は、この映画を映画的魅力に満ちた傑作に仕上げた。省略と飛躍、さまざまな時間的トリックを駆使した、まさに映画の文体。軽いめまいさえ感じさせるスピード感は、観るものを思わずうならせるはずだ。う〜む。

 俳優たちがそれぞれの個性を生かしながら、物語に強烈な色彩を与えている。ジョン・トラボルタの不良っぽい魅力。ユマ・サーマンの妖しい美しさ。ブルース・ウィリスの男くさい存在感。僕のひいき役者サミュエル・L・ジャクソンは、トニー・スコットの『トゥルー・ロマンス』では登場直後すぐ殺されてしまっただけに、今回この出ずっぱりは嬉しくてしかたない。『フィッシャー・キング』のアマンダ・プラマーと、『レザボアドッグス』の囮警官ティム・ロスの強盗コンビが、危険な暴走ぶりで映画巻頭を飾るのも痛快。ハーヴェイ・カイテルとクリストファー・ウォーケンは、画面に登場するだけで他を圧する貫禄を誇示する。他にも、薄汚いエリック・ストルツ、いかれたロザンナ・アークエット、可憐なマリア・デ・メディロス、不敵な面構えのビング・ライムスなど、極彩色のキャスティング。そのあまりの豪華さに、よだれタラタラの2時間半だった。

 パイ生地のように折り曲げ積み上げられたエピソードの集積は、圧倒的なボリュームで食べごたえがある。一口ごとに口当たりを変える料理人の腕とサービスぶりに食欲をそそられるが、この映画を観た後は満腹でしばらく動けなくなりそうだ。

 重苦しい雰囲気が漂う陰鬱で凄惨な監督デビュー作とうって変わっり、この作品には楽天的で明るい雰囲気が満ちている。才気あふれる若い監督に拍手喝采。娯楽映画の王道を突っ走る、健全なアクション映画の傑作だ。

 1994年カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作品。


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