夢と狂気の王国

2013/11/18 TOHOシネマズ錦糸町(スクリーン3)
スタジオジブリの内側をのぞき見している気分が味わえる。
ほのぼのしたドキュメンタリー映画。by K. Hattori

13111801  『エンディングノート』の砂田麻美監督が、『風立ちぬ』の製作追い込みに入ったスタジオジブリを取材するドキュメンタリー映画。取材は2012年秋にスタートし、2013年の『風立ちぬ』公開を経て、9月に行われた宮崎駿監督の引退記者会見の舞台裏とその後までを追いかける。タイトルの『夢と狂気の王国』とは、そのままスタジオジブリのことだろう。映画のメインビジュアルでは、ジブリの中心人物、宮崎駿、鈴木敏夫、高畑勲が仲良く並んで腰掛ける写真が使われている。彼らがこの映画の言う『夢と狂気の王国』の住人であることは間違いない。しかし彼らはこの王国の領主なのだろうか? それは映画を観ていてもよくわからない。そもそも何が「夢」で、何が「狂気」なのかも不明だ。

 わざわざ劇場で公開するドキュメンタリー映画にしては、踏み込み不足で生ぬるいというのが僕の印象だ。だがこれは作り手の狙い……というより、この映画の製作を許可したジブリ側の狙いでもあるのだろう。この映画が取材しているのは、スタジオ内が一番ピリピリしている映画の追い込み時期だった。そのタイミングで、他人の心の中まで土足でずかずか入り込んでくるようなドキュメンタリー作家にスタジオ内をうろうろされたのでは、完成するはずの映画も完成しなくなってしまうではないか。この映画を撮った砂田麻美監督に求められたのは、スタジオジブリの中で行われている映画作りの邪魔にならないことなのだ。

 この映画の冒頭近くに、スタジオジブリの中を我が家のようにうろつき回るネコが登場する。自由気ままにスタジオのあちこちを歩き回るが、その存在はスタジオの風景の中に馴染んでいて、もはやその存在を誰も気にしていない。砂田監督に求められていたのは、このネコのような存在になることだった。どこにでも入り込んで、何でも撮ってくる。でも邪魔はしない。スタジオの中の風景の一部として、そこに溶け込んで消えてしまうのだ。

 予告編からは高畑勲監督の存在がそれなりに大きな比重を占めた作品になることを期待していたのだが、出来上がった映画は宮崎駿中心の映画だった。この点はやや期待外れ。しかしそれでもこの映画は間接的な形であっても、宮崎駿と高畑勲の不思議な関係に迫ろうとしている。東映動画時代やジブリ発足前後の古い写真や映像が、随所に挿入されているのがこの映画最大の見どころかもしれない。映画を観ていても、結局高畑勲という人はよくわからないのだが、姿を見せない分だけ高畑勲の存在感が大きく見えてくるのは不思議だ。モンスター映画で、なかなか姿を見せないモンスターのようなものだと思う。

 『風立ちぬ』の完成と大ヒットで終わるべき映画だったと思うが、突然の引退発表が結末を奇妙な方向にねじ曲げた。作り手にはいろいろな悩みもあっただろうが、きれいに終われない映画になっているところもこの映画の味だろうか。

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11月16日公開 TOHOシネマズ六本木ヒルズほか
配給:東宝
2013年|1時間58分|日本|カラー|デジタル
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