グォさんの仮装大賞

2013/11/15 シネマート六本木(スクリーン3)
老人ホームを抜け出して「仮装大賞」に出場する老人たち。
中国はどんどん日本に似てくるのだった。by K. Hattori

13111501  妻が亡くなったことから住まいを子供夫婦に譲り、ひとり老人ホームで残りの人生を過ごすことを決めたグォ。定員一杯の施設だったが、かつての同僚チョウの口添えもあって何とか居場所を確保することができたものの、家族に捨てられ身寄りがないまま老いていく恐怖と孤独が身に染みる……。チョウはそんグォを、施設の老人たちで出場する仮装大賞に誘う。収録が行われるのは上海。だが院長は責任問題を考えると、この遠征を許可することはとてもできないと言う。「家族がOKならそれでいいんだろう!」と啖呵を切ったグォたちだったが、家族を前にしたお披露目会で転倒事故が起きたことから家族たちの大反対を招いてしまう。「こうなったら自分たちだけで仮装大賞に出るぞ!」と張り切るチョウだが、グォはチョウが大きな秘密を隠していることを知ってしまうのだった……。

 「さあ上海に行こう!」という老人たちがモンゴルの大草原地帯を突っ切って行くので、この物語の舞台になっているのが中国のかなり奥地であることがわかる。資料によれば寧夏回族自治区だそうで、Google Mapによれば上海からはざっと2,000キロ。函館から鹿児島までの距離にほぼ等しい。この移動シーンは映画の中でもひとつの見せ場で、開放感のある風景はアメリカ製のロードムービーを思わせる。この移動だけで1本の映画を作ることもできそうだが、ここをさらりと切り上げて前後のドラマ部分をしっかり作っているあたりに、作り手のセンスを感じるのだ。(もちろん移動を長くすると、撮影が大変になるとうこともあるだろうけれど……。)

 映画は心温まる老人たちの友情ドラマだが、この友情は「家族に捨てられて頼るべき身寄りがない」ことの裏返しでもある。子が老いた親を扶養し、場合によっては介護するかつての家族関係は姿を消し、老いた親たちは看護付きの老人ホームに送り込まれている。公営の老人ホームは入居希望者が殺到し、入所しようにも空きがない。老いて衰えていく自分の肉体と、頼るべき者のない孤独感の中で、主人公は一度自殺を考える。これはもう中国の話とは思えない。日本の中にもあるであろう、崩壊していく家族の姿なのだ。

 中国は急速な経済成長の果てに「日本化」しているように思える。中国は経済力で世界第2位という日本のポジションを奪い取ると同時に、日本と同じ社会問題を抱え込んだ。急激な都市化と地方の過疎化、核家族化、貧富の格差、親子の断絶、公害問題、環境汚染、偽装食品、大卒の就職難、ワーキングプア、ブラック企業、そして少子高齢化問題。日本の10倍以上の人口で日本と同じ社会問題が起きるのだから、21世紀の中国は大変なのだ。

 最後に出てくるのは「欽ちゃん&香取慎吾の全日本仮装大賞」。この映画の日本版DVDを出すときは、チョウさんの声をぜひ萩本欽一さんに担当してほしい。

(原題:飛越老人院 Full Circle)

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2014年1月11日(土)公開予定 シネマート新宿、シネマート心斎橋
配給:コンテンツセブン 配給協力:エスーパース・サロウ 宣伝:ポイント・セット
2012年|1時間44分|中国|カラー|シネマスコープ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.guosan.jp
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