オンリー・ゴッド

2013/11/08 シネマート六本木(スクリーン3)
舞台はタイのバンコクなのにこの冷たいムードは何だ。
この映画はカルトムービーになると思う。by K. Hattori

13110801  タイのバンコクでボクシングクラブを経営する、アメリカ人の青年ジュリアンと兄のビリー。だが薬物中毒で精神的に不安定なビリーが若い娼婦を惨殺し、その報復として彼女の父に殴り殺された。弟ジュリアンは復讐のため男の家を襲撃するが、相手の男から事件の一部始終を聞いて彼をゆるすことにした。だが息子の死を聞きつけてアメリカからやってきた母クリスタルは、ジュリアンのこの決定にとても満足できない。彼女は人を雇って息子を殺した男を殺すが、その後、息子が殺された現場にはもうひとり別の男がいたことを知って、その男の殺害も依頼する。相手は警官のチャン。だがこのことで、クリスタルは自らの破滅への第一歩を踏み出したのだった。そんな母の行動に、ジュリアンもまた否応なしに巻き込まれていく。

 『ドライヴ』のニコラス・ウィンディング・レフン監督が、再度ライアン・ゴズリングと組んで作ったバイオレンス映画。かなり強烈に、禍々しいオーラを放つ怪作だが、その中心にいるのはチャンというタイ人の警官だ。いつも制服姿の部下たちを何十人も引きつれて歩き、自らが決めた刑の執行にためらいを見せない冷酷非情な必殺仕事人。活動が一段落するとカラオケクラブで一節歌うが、それがなかなかの美声なのだ。いつも無表情で、何があってもニコリともしない。凄惨な事件現場を検分するときも、制裁を加えるときも、銃撃されているときも、敵を追いかけているときも、拷問しているときも、いつも表情は同じで変わらない。感情が読めず、腹の奥が見えないのだ。

 チャンと対決するのは兄弟の母クリスタル。演じているのはクリスティン・スコット・トーマスだが、全身から発散する腐敗した悪の匂いがスクリーンのこちら側にも伝わってくるような迫力。しかし彼女は喜怒哀楽をかなり容易に表に出すタイプで、チャンに比べるとずっと小物に見えてしまう。

 映画の中でチャンに対抗しうる不気味な無表情ぶりを見せるのは、ライアン・ゴズリングが演じたジュリアンだ。このキャラクターは、『ドライヴ』でゴズリングが演じた主人公の延長にある役だ。穏やかな表情の向こう側に、途方もない狂気や暴力性を秘めている。チャンの持つ狂気と暴力が既にスクリーンの中に具体化されているのに比べると、ジュリアンの狂気と暴力は底の見えない不気味さがある。いつかそれが外部に噴出し、映画全体を支配してしまうに違いないという予兆が常に付いて回る。だが最終的に、これは予感や予兆だけで終わってしまった。物語の中での勝者が誰であれ、映画を最後まで圧倒的に支配し続けた勝者はチャンだ。

 主人公がマザコンでインポテンツという部分も含めて、かなりヘンテコな映画だ。しかしこのムードは、一度味わっておく価値があると思う。これは物語がどうこうではない。この異様な雰囲気を体験すべき映画なのだ。

(原題:Only God Forgives)

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2014年1月25日(土)公開予定 新宿バルト9ほか
配給:クロックワークス、コムストック・グループ 宣伝:スキップ
2013年|1時間30分|デンマーク、フランス|カラー|ビスタ|dcp5.1ch
関連ホームページ:http://onlygod-movie.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
サントラCD:Only God Forgives
サントラMP3:Only God Forgives
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