許されざる者

2013/10/03 楽天地シネマズ錦糸町(シネマ4)
イーストウッドの同名西部劇映画を李相日がリメイク。
物語の舞台は明治初期の北海道だ。by K. Hattori

13100301  「最後の西部劇」と呼ばれたクリント・イーストウッドの同名映画を、李相日監督が渡辺健主演で再映画化したもの。物語の舞台は、明治初期の北海道に移されている。戊辰戦争で新政府軍から「人斬り十兵衛」と呼ばれた剛剣の遣い手・釜田十兵衛は、北海道でアイヌの女に生ませた幼い子供ふたりと暮らしている。妻は数年前に病気で亡くなった。そんな彼のもとを、かつての仲間・馬場金吾が訪ねて来る。開拓地の遊郭で客の男が女を切り刻み、その復讐のため相手の男の命に賞金がかけられているのだという。一緒に行かないかという誘いを一度は断ったものの、畑は不作でこのままだと一家3人は餓え死にだ。十兵衛は金吾と開拓地の村に向かうが、その旅にアイヌの血を引く青年・五郎が同行する。だが目的地では新任の警察署長・大石一蔵が、賞金目当てに集まってくる無法者たちを強力な力で押さえつけていた。

 リメイク作品なので、物語の骨子はイーストウッドの映画と同じだ。時代もオリジナルと同じ1880年代初頭。この時代に銃もライフルも存在するため、この映画はひとりの剣豪を主人公にした時代劇ではあるのだが、いわゆるチャンバラ映画とは違うテイストに仕上がっている。遠距離ではライフルで撃つが、近距離では刀という二段構えなのだ。

 この映画については、「原作は西部劇だが、完成した映画は黒澤映画になっていた」という印象だ。この映画にはイーストウッドのオリジナル版より、むしろ黒澤映画のさまざまな場面を連想させる場面が多い。映画冒頭にある不格好で凄惨な殺人シーンは、黒澤明の『酔いどれ天使』や『羅生門』を思い出させる。柳楽優弥演じるアイヌの青年が主人公たちの前にふらりと現れる場面は、『七人の侍』の菊千代だ。このアイヌ青年には菊千代と同時に、同じ『七人の侍』の勝四郎も混じっているようだ。ズタボロの十兵衛が這いずり回って逃げ出す場面や、最後の殴り込みは『用心棒』。場末の女郎の様子も『用心棒』か、はたまた『赤ひげ』の岡場所の女たちか。ラストシーンで主人公が去って行く場面は『乱』だ。とにかく全編、黒澤時代劇のいろいろな場面を連想させるのだ。ただしこれは「引用」でも「オマージュ」でもなく、監督の李相日の中に植え付けられている映画的な原体験によるものだと思う。

 この映画が有名映画の翻案リメイクではなく、オリジナリティを感じさせる作品になっているのは、映画の中で明治時代のアイヌの問題が取り上げられているからだ。主人公十兵衛の亡くなった妻はアイヌで、五郎もアイヌと和人の混血だ。劇中には主人公がアイヌの古老を訪ねる場面や、別のアイヌの村が和人の屯田兵に襲われる場面なども出てくる。しかしこれは傍系のエピソードで、物語に直接アイヌ問題が絡んでくるわけではない。しかし直接ではないからこそ、この問題が反射光や間接光のように薄ぼんやりとした影を映画全体に投じているのだ。

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9月13日(金)公開 新宿ピカデリーほか全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
2013年|2時間15分|日本|カラー|2.35:1|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://wwws.warnerbros.co.jp/yurusarezaru/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
サントラCD:許されざる者
ノベライズ:許されざる者
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