R100

2013/09/11 ワーナー・ブラザース試写室
これはどうしようもない駄作か。それとも別の何ものか……。
松本人志のたくらみに観客は試されている。by K. Hattori

13091103  大型家具店で販売員の仕事をしている片山貴文は、秘密の会員制SMクラブに入会する。クラブと契約すると、1年間にわたってさまざまなタイプの女王様から多種多様な虐待と折檻を受けることができるのだ。しかも女王様は契約者の日常生活の中に突然現れ、いきなり過激なプレイを開始する。日常と非日常が直結する緊張感は、灰色の日常生活に生きる活力を生み出すはずだった。だが女王様たちは、片山の思惑を超えて彼の日常生活そのものを破壊しはじめてしまう。片山はそれを恐怖しつつ、日に日に過激さを増すプレイ内容に興奮と恍惚を覚えずにはいられないのだった……。

 松本人志の新作映画は、いろいろな意味で規格外の作品だった。これが「駄作」なのか、それとも「傑作」なのかがそもそもわからない。規格を外れてしまったものには、そうした価値をはかる尺度がないからだ。面白いのか、つまらないのかと問われれば、面白くもあり、つまらなくもあると答えるしかない。この映画には中間がない。平凡で、中庸で、普通なところがない。「面白い」と「つまらない」の両端にメーターの針が振り切れて、その間がほとんどないのだ。何を面白いと感じ、何をつまらないと感じるかは人それぞれだろう。僕はこの映画を観て、心の中のメーターの針は「つまらない」の側に振り切れていることが多かったのだが、そこからいきなり「面白い」の側に瞬発的に針が振り切れるのも異様なスリルがある。この映画の面白さは、そうしたメーターの針の振れ幅自体にあるのかもしれない。

 別の例えをするなら、これは三振かホームランかという映画なのだ。普通の映画はもっと緻密に組み立てられている。まずは先頭打者を塁に出して、次の打者がランナーを進めて、次の打者が長打狙いでまず1点を入れておこう……というようなドラマ作りの定石を大事にしている。だが本作『R100』は違う。三振かホームランだ。しかも三振の場合は漏れなく三球三振。ボール球を見送るとか、くさい球はカットしてファールにするとか、そういう小技はまったくない。ボールが飛んできたら、とにかく全力でバットを振り回す。それだけだ。

 普通はこんな映画作りは許されない。脚本段階で誰かが絶対にストップをかける。それができなければ、映画が完成してもお蔵入りにしてしまう。あるいはひっそりと小さな劇場で公開してお茶を濁し、後からビデオ市場で少しでも資金を回収しようとする。だがこの映画は「丸の内ルーブルほか全国一斉ロードショー」だ。これがスゴイ。この映画は作品製作の姿勢において「三振かホームランか」という極端な路線を狙っているが、それを興行面でも貫こうとしている。

 この映画の興行は、おそらく三振だろう。つまり大コケだと思う。だがひょっとすると力任せに大振りしたバットがボールの芯に当たり、超特大の場外ホームランになるかもしれない……と思わせる異様な作品だ。

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10月5日(土)公開予定 丸の内ルーブルほか全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
2013年|1時間40分|日本|カラー|ビスタサイズ
関連ホームページ:http://r-100.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:R100
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