少年H

2013/08/15 楽天地シネマズ錦糸町(シネマ1)
妹尾河童の自伝的な小説を豪華キャストで映画化。
日本の戦争を子供の目から描く。by K. Hattori

13081501  舞台美術家でエッセイストでもある妹尾河童の同名自伝小説を映画化した作品だ。原作は1997年に発表されてベストセラーになったが、児童文学者の山中恒(『転校生』や『さびしんぼう』の原作者)に内容の誤りを指摘されるなど、本当にすべてが実在の出来事であったかは疑わしい。ただ、戦後50年以上たってから書かれた思い出話には、その間に得た情報によって合理的に肉付けされている部分があって当たり前だ。人間の記憶なんてまるであてにならない。記憶は後から作られる部分もある。だから「少年H」を意図的な嘘や捏造だと決めつける必要もないだろう。自伝小説なんてそんなものなのだ。大事なのは映画作品としての『少年H』が面白いかどうかなのだが、今回の作品についてはそのあたりがちょっと微妙だったりする。

 これが自伝であり実際にあった話であったか否かに関わらず、お話しそのものは良くできていると思う。主人公のHという名は、主人公の本名(妹尾肇)のイニシャルから付けられたあだ名。しかしこれが少年Aなどと同じある種の匿名性を感じさせて、存在そのものが記号化される。その結果、Hの中にあらゆる人が自分自身を投影できるようになるのだ。主人公Hの家族は、両親とHに妹がひとりの4人核家族。これは現代の標準的な家族構成と同じで、映画を観ている人にとっても馴染みやすい。物語の舞台は神戸で、主人公の父は洋服の仕立て職人。神戸は国際的な貿易港で、背広をあつらえる客には外国人も多い。また主人公一家はキリスト教徒なので、宣教師は外国人だし、年の瀬にはクリスマスを祝うなど現代にも通じる風俗に親しんでいる。少年Hの一家は、1940年代の日本に存在した「現代人」なのだ。

 この映画で残念なのは、タイトルにもなっている少年Hの存在感が薄いことだ。物語を動かしていくのは彼の両親であり、演じている水谷豊と伊藤蘭、特に父親役の水谷豊は素晴らしい存在感を見せる。しかし脚本上はやはり少年Hが主役なのだから、これはHを演じた吉岡竜輝を盛り立てて、彼をドラマの中心に据えなければならなかったはずだ。少年が親の保護のもとを離れて自立していくという、主人公の成長ドラマが中心軸になっている脚本なのだから。だがこの映画は結果としてそうなっていない。物語の中心ではない両親のエピソードが盛り上がって、主役のエピソードが薄い。面白い映画なのに、ディテールや周辺エピソードばかりが面白くて、中心部がスカスカなのだ。

 神戸大空襲の場面やその後の焼け跡など、映画としての見どころも多いのだが、ドラマ部分が弱いので映画としては小粒な印象しか残らないのが残念。戦前戦中の神戸を再現したセットにはお金がかかっていそうだし、出演者の顔ぶれも豪華で厚味のある世界観を作り上げているの。しかしどんなに立派な器を作っても、その上に載せる料理が貧弱なのではお話にならない。

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8月10日公開 TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国東宝系
配給:東宝
2013年|2時間2分|日本|カラー|ビスタサイズ|ドルビーSDR
関連ホームページ:http://www.shonen-h.com
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
サントラCD:少年H
原作(新潮文庫):少年H(妹尾河童)
原作(講談社文庫):少年H(妹尾河童)
原作(講談社青い鳥文庫):少年H(妹尾河童)
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