フランク・シナトラ晩年の代表曲のひとつであり、プレスリーやシド・ヴィシャスなど数多くの歌手にカバーされた名曲「マイ・ウェイ」。これはフランスでヒットしていた既成曲に、アメリカ人のシンガーソングライター、ポール・アンカがオリジナルの歌詞を付けたものだった。原曲を作詞作曲(共作)したのは、1960年代から70年代にかけて活躍したフランスの歌手クロード・フランソワ。本作『最後のマイ・ウェイ』は、フランスの国民的歌手と言われたクロード・フランソワの伝記映画。彼の誕生から死までを時系列に描きつつ、ヒットナンバーの数々を劇中にたっぷり散りばめた極上の音楽映画に仕上がっている。主人公を演じるのはジェレミー・レニエで、その容姿はクロード・フランソワに瓜二つ。劇中の歌声はクロード・フランソワ本人の録音を使っているが、レニエの声はフランソワに似ているようで、台詞と歌の場面のつながりにはまったく違和感がない。
歌手を主人公にした映画というのは、トーキー映画の誕生と同時に生まれている。1927年にアル・ジョルスン主演で製作された『ジャズ・シンガー』が、最初の長編トーキー映画だ。ジョルスンは舞台でも大スターだったが、映画に出演することで世界最初の「歌う映画スター」になった。そんなジョルスンの生涯を映画化したのが、1946年の『ジョルスン物語』と3年後に製作された続編『ジョルスン再び歌う』だ。主演のラリー・パークスはアル・ジョルスン本人(当時まだ現役歌手として存命中だった)の歌声に合わせて朗々と歌う歌唱シーンを再現していたが、「本人の歌と本人を演じる俳優の演技を合わせる」という手法は本作『最後のマイ・ウェイ』と同じだ。
ポピュラーソングの歌手になろうとして主人公が父親に勘当されるという展開は、ジョルスンが主演した『ジャズ・シンガー』にもあるエピソード。ただし『ジャス・シンガー』では一度息子を勘当した父は最後に息子と和解するが、『最後のマイ・ウェイ』の父と息子はついに和解しないままだった。たぶん現実はこんなものだろう。父親に認められることを願いながら最後までそれがかなわなかった主人公は、世界一の大歌手フランク・シナトラに自分の曲を認められることで、ようやく代理的な満足感を得る。だがこれはあくまでも代理的な満足でしかない。主人公クロードがホテルのロビーで偶然シナトラ本人と出くわしながら、彼に名乗ることができないまま見送るシーンは印象的だ。彼はまだ、自分が認められていないと感じているのだ。
劇中の歌唱シーンはどれもすごい迫力。試写の後にYouTubeでクロード・フランソワ本人のテレビ出演シーンなどを見たが、映画の方が舞台装置がゴージャスになり、ダンサーの振りもレベルが高くなっているようだ。歌手の伝記映画という、ミュージカル・ジャンルの王道を突っ走る傑作。ミュージカル好きは必見!
(原題:Cloclo)
サントラCD:Cloclo
関連CD:CLOCLO MADE IN JAPAN 2013~最後のマイ・ウェイ 関連CD:ザ・ベスト・オブ・クロード・フランソワ |