脚本家のアルベルトは最近スランプ気味。プロデューサーから依頼を受けた原稿はちっとも進まず、部屋でパソコンの前に座ってもストレスが溜まる一方だ。そんな彼はある晩、街で急に胸騒ぎを感じて病院に駆け込むことになる。同じ夜、自動車修理工のアンジェロは、ひどい夢を見て胸苦しさに目を覚ます。だがそれは心臓発作の前兆だった。こうして羅馬に暮らす脚本家と自動車修理工が、同じ日の同じ時間に同じ病院に駆け込み、運び込まれることになる。一命を取り留めたふたりは同じ病室で隣同士になり、同病相憐れむ気安さと年齢の近さもあって(他の患者は老人ばかり)、すっかり打ち解けて語り合うようになるのだった……。
「イタリア人はいい女を見ると必ず口説く」というのが少し前までの日本人が思い描くイタリア人男性の姿だったが、この映画の主人公アルベルトはまさにそういうタイプ。小太りではげ上がった中年男だが、女性にはじつにまめに声をかけて回る。相手がそんなアルベルトをバカにすることもあるが、それにもめげずに声かけを続ける。絵に描いたような女たらしなのだが、映画を観ていても誰もこの男を嫌いにはなれないだろう。演じているアントニオ・アルバネーゼはコメディアンで、明るくて嫌味がないのがいい。
アルベルトのわかりやすさに比べると、修理工場を営むアンジェロはちょっと複雑なキャラクターだ。恋女房とふたりで小さな工場を立ち上げ、そこそこの金を貯めて不動産にも投資しているというちょっとした実業家なのだが、何しろ映画に登場した最初から真っ青な死にそうな顔で、元気なところが一度も出てこない。ハンサムで、家族思いで、野心もあり、ユーモアもあり、それでいてずるいところもある。このふたりが同じ病気を持つ者同士の気安さで親友になり、互いの人生に深く関わりを持っていくようになるのだ。
アンジェロがアルベルトに何を求めていたのかが、映画を観ていても少しわかりにくい。その行動があまりにも突飛なので、映画を観ていてもアンジェロの行いがいちいち腑に落ちないのだ。自分の命がこの先長くないと考えたとき、残された家族のことが気になるのはわかる。でもアンジェロの行動には納得できない。これはやはり死を前にして、ひとりの男がある種の狂気に陥っていると考えるべきなのではないだろうか。アルベルトの言う「お前は正気じゃないぞ!」というのがこの場合の正解で、浮ついてちゃらんぽらんな男に見えたアルベルトは最後に正しく振る舞ったのだと思う。ただしそれによって、アンジェロがどう考えたのかはこの映画の中に描かれていない。やはりアンジェロは最後まで謎なのだ。
アルベルトが語る「物語の作り方」は、以前似たような話を別のどこかで見たか聞いたかしたようなこともあるけれど、なかなか面白い。今度外出中に退屈になったら、ちょっとやってみたいと思う。
(原題:Questione di cuore)
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