じんじん

2013/04/10 京橋テアトル試写室
中年の芸人が北海道の農家で出会った女子高生は……。
21世紀に蘇った新しい寅さん映画。by K. Hattori

12041001  渥美清主演の寅さんシリーズ最終作『男はつらいよ 寅次郎紅の花』が公開されたのは、平成7年(1995年)12月のことだった。翌年夏に渥美さんが亡くなってシリーズは終了。追悼番組として翌年11月に『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇』が公開されて、この人気シリーズは全48作(+特別篇1本)で幕を閉じることになる。だが寅さんこと車寅次郎のキャラクターは、日本人の心の中に「風来坊の愛すべき人物」の原型として刷り込まれる。みんな寅さんが好きなのだ。寅さんを愛しているのだ。本作『じんじん』は、そんな寅さん追慕の念から生み出された作品に思える。

 大地康雄演じる立石銀次郎は、若い頃から日本全国を渡り歩いてきた芸人だ。子供時代に炭焼き職人だった父に連れられて、あちこちを転々としてきた暮らしが身体に染みついてしまったらしい。最近は宮城県の松島に住まいを置いているが、そこも仮の宿のようなもの。むしろ彼にとって心の故郷と言えるのは、少年時代に一時期を過ごした北海道の剣淵町かもしれない。彼は毎年のようにこの懐かしい土地を訪れては、幼馴染み庄太の家で何日かを過ごす。庄太の妻や子供とも、まるで家族のような付き合いなのだ。だがその年いつものように剣淵を訪ねた銀次郎は、庄太の家に就農体験学習にやって来ている東京の女子高生たちと出会う。最初は銀次郎の異様な風体と振る舞いに驚いていた高校生たちも、銀次郎の人懐こくて温かい人柄に触れて徐々に打ち解けていった。だが高校生のひとり彩香は、銀次郎に固く心を閉ざしたままだ。間もなく彼女たちが東京に戻るという日、銀次郎は庄太から驚くべき話を聞かされるのだった……。

 大地康雄が演じる銀次郎が、この映画における車寅次郎だ。寅次郎と銀次郎で名前も似ているが、仕事も似ている。寅さんは全国を渡り歩くテキ屋(露天商)だったが、銀次郎は香具師の口上を売り物にする芸人だ。この銀次郎が、毎年同じような時期になるとふらりと北海道の幼馴染みのところに現れて、いろいろなトラブルを起こすというのも寅さんと同じ。してみると、幼馴染みの庄太は寅さんシリーズにおける妹さくらと同じポジションだろうか。寅さんが毎回美女に出会って彼女に恋をし、必ず振られて旅に出るように、この映画の銀次郎も美女に出会って恋をして、振られた後はまた旅に出る。この映画は寅さん映画に対するオマージュなのだ。

 だがこの映画には、寅さん映画とは決定的に違うところがある。それは主人公の銀次郎に離婚歴があり、子供もいたという点だ。そのため映画の後半は寅さん映画にないまったく別の展開になるが、それでも銀次郎の行動パターンは「車寅次郎ならこうであろう」という路線を脱することがない。ヒロインに背を向けて立ち去る姿や、旅の空で元気に商売をしている銀次郎の姿は、やはりフーテンの寅と生き写しに見える。

Tweet
7月13日公開予定 シネマート新宿ほか全国順次公開
5月18日より北海道先行上映予定
配給:『じんじん』全国配給委員会 配給協力・宣伝:マジックアワー
2013年|2時間9分|日本|カラー|ビスタ|5.1chステレオ
関連ホームページ:http://www.jinjin-movie.com
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
関連商品:商品タイトル
ホームページ
ホームページへ