世界にひとつのプレイブック

2013/02/13 ギャガ試写室
愛する人を失って精神に変調をきたした男女のラブストーリー。
アカデミー賞で8部門ノミネート。by K. Hattori

13021302  自宅で妻の浮気現場を目撃し、相手の男を半殺しの目に遭わせたパット。躁うつ病と診断されて精神病院に入院していた彼が退院してみると、妻は家を出てパットにも接近禁止令を出していた。パットの病気は完治したわけではなく、近所迷惑な躁状態が退院後もずっと続いている。妻は必ず戻ってくると信じ込み、彼女を取り戻すために彼女が学校で教えている教材を読み、その内容に激怒して真夜中に怒鳴り散らす。近所の人や昔の同僚からもすっかり危険人物のレッテルを貼られたパットだが、そんな彼と昔ながらの付き合いをしてくれるのが親友のロニー夫妻だ。ロニーの義妹ティファニーを紹介されたパットは、馴れ馴れしく接近してくる彼女に警戒感丸出し。こんなところを誰かに見られたら、妻に誤解されてしまうではないか! だが彼女は今でも、パットの妻と時々会うことがあるという。パットはティファニーに、妻への手紙を託すことを思いつく。だがその交換条件は、パットがティファニーのダンスパートナーになって、一緒にコンテストに参加することだった……。

 マシュー・クイックの小説を、『ザ・ファイター』のデビッド・O・ラッセルが脚色監督したドラマ作品。主人公のパットも、ヒロインのティファニーも、精神を病んでいて周囲に迷惑かけっぱなしという設定だ。最初のうちはどうしても、彼らに感情移入することは難しい。病院から出てきたパットが両親の家で同居しはじめるくだりでは、パット本人よりもむしろ両親の側に同情が集まるはずだ。映画はここで一度、主人公のパットを観客から突き放してしまう。この主人公は困った奴だ。だが周囲には善良で正直な人たちが大勢いて、主人公は彼らに愛されている。ここではパットを裏切った妻が映画に出てこない。彼女は回想シーンに少し姿を現す程度で、立ち位置は常に物語の外にある。おそらく彼女にも、同情されるべき言い分はあるのだろう。彼女も他の登場人物たちと同程度には、善良な人に違いない。だが映画は彼女を、巧妙に物語の外に追いやってしまう。こうすることで映画の中のすべてのエピソードはパット中心に回り、映画の途中からは彼が無事に物語の中心人物として機能しはじめることができるのだ。

 アカデミー賞では、作品賞・主演男優賞・主演女優賞・助演男優賞・助演女優賞・監督賞・編集賞・脚色賞と、主要なところばかり8部門にノミネート。それだけ作品の評価が高いという証明なのだが、派手なアクションがあるわけでも、大がかりなセットやコスチュームで人目を引くわけでもない、どちらかと言えば地味な作品が、こうして高い評価を受けているのがアメリカ映画の健全さだろうか。出演者の中ではティファニーを演じたジェニファー・ローレンスが素晴らしい。特別な美人というわけではないが、目に力があって、グイッと相手をにらみつける表情がいい。ツンデレの魅力です。

(原題:Silver Linings Playbook)

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2月22日公開予定 TOHOシネマズシャンテ、新宿武蔵野館
配給:ギャガ
2012年|2時間3分|アメリカ|カラー|シネスコ|ドルビーデジタル、ドルビーSR、SDDS
関連ホームページ:http://playbook.gaga.ne.jp
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
サントラCD:Silver Linings Playbook
原作:世界にひとつのプレイブック(マシュー・クイック)
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