コズモポリス

2013/02/12 ショウゲート試写室
現実感が喪失した世界の中を28歳の大富豪がさまよう。
D・クロネンバーグ監督作。by K. Hattori

Cosmopolis  エリック・パッカーは28歳にしてアメリカ有数の大富豪だ。巨額の資金を動かして金融市場に投資を行うが、その読みの的確さから人々は彼を「予言者」と呼ぶ。経営する投資会社は巨大なものになり、多くの人の恨みを買うようなこともしてきた。そのため彼は数人の警備員を随行し、防弾仕様の白いリムジンで移動する。彼はそのリムジンの中で、市場の動向を監視し、取引をし、打合せをし、排泄し、女たちとセックスする。本社にオフィスはあるが、今はこのリムジンが彼の事実上の仕事場であり住まいなのだ。だがそんな彼の王国が、崩れ始めようとしている。下落を見込んで投資した元の価格が、市場で上昇しているのだ。彼の富は今まさに消え去ろうとしている。エリックは現実感覚を喪失したまま、愛車のリムジンで騒然としたニューヨークをさまようのだ……。

 ドン・デリーロの同名小説を、デイヴィッド・クロネンバーグ監督が脚色監督した作品。主人公のエリックを演じるのは、『トワイライト』シリーズで主人公のヴァンパイアを演じたロバート・パティンソン。映画は彼がリムジンで街を移動して行くのに合わせて、さまざまな人たちが彼とつかの間の接点を持っては消えて行く。各人物ごとに小さなエピソードがあって、それが白いリムジンで串刺しになっているような構成だ。個々のエピソードには関連があるものもあれば、関連がまったくないものもある。各エピソードに出てくる小さな台詞の断片が、少しずつ主人公エリックの「今」を浮き彫りにして行く形にはなっているが、映画を最後まで観てもエリックに感情移入できるわけではない。エリック自身が、自分自身を見失ってしまっているからだ。

 離人症という精神疾患がある。物事の現実感がなくなり、すべてが絵空事のように思えてくる状態が持続することだ。大きなショックを受けると、人間は「えっ、嘘でしょ?」と思う。現実感が喪失して、自分が夢の中にでも迷い込んでしまったのではないかという状況に陥る。こうした状態は短時間であれば、誰でも一度や二度は経験したことがあるだろう。離人症の問題点はそれが、ずっと継続していることだ。『コズモポリス』という映画について一言で表現すれば、これは「離人症的な映画だ」ということになる。映画の中に出てくる出来事には、どれも現実味がない。これは荒唐無稽な絵空事だという意味ではない。個々の出来事が、人々が、台詞が、有機的につながって一体感を持った世界とならず、すべてがバラバラでとりとめがないのだ。風景は流れていく。人も流れていく。出来事もそうだ。

 作品としては面白いが、これは観客の共感を得られないだろう。主人公は現実を見失っているが、彼が現実感を取り戻したところで、そこにあるのはどうせろくでもない世界。これは最初から、ハッピーエンドになることが許されない閉塞した世界なのだ。

(原題:Cosmopolis)

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4月13日公開予定 ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館
配給:ショウゲート 配給協力・宣伝:ミラクルヴォイス
2012年|1時間50分|フランス、カナダ|カラー|ビスタサイズ|DCP|5.1ch
関連ホームページ:http://cosmopolis.jp
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
輸入盤Blu-ray:Cosmopolis
サントラCD:Cosmopolis
原作:コズモポリス(ドン・デリーロ)
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