よりよき人生

2013/01/22 シネマート六本木(スクリーン3)
借金を抱えた男に子供を残して恋人は行方不明に……。
暗い話だが最後はハッピーエンド。by K. Hattori

Yoriyoki_jinse  料理人としての腕に自信はあるのに、コネも実績もないため給食センターで出来合いの料理を作る仕事に甘んじているヤン。彼は面接に出かけたレストランで、ウェイトレスのナディアと知り合い恋に落ちる。彼女には9歳の息子スリマンがいたが、すぐに打ち解け家族のような関係に。ある日3人で出かけた湖畔で廃屋を見つけたヤンは、そこを改装してレストランにするというアイデアを思いつく。独立して自分の店を持つのだ。銀行に資金を借りて改装工事が始まるが、資金にまったく余裕がない。ヤンは消費者ローンから借りた金の返済に滞り、相談に乗った多重債務委員会からはすぐ店を手放すようアドバイスされる。だがヤンはこの助言を聞き入れることができない。手塩にかけて仕上げた自分の店を、手放すことができないのだ。だがそのことが、ナディアとスリマンの運命まで大きく狂わせていくことになる……。

 多重債務で首が回らなくなった男のせいで、恋人が息子を置き去りにして海外に出稼ぎに行く羽目になり、男の方は子供を抱えながら貧困ビジネスの餌食になってしまうという物語。それもこれも主人公が高利の消費者ローンで店購入の頭金を借りてしまったせいなのだが、それを自業自得だと言ってしまうのは気の毒だろう。主人公たちに頭金とすべき蓄えがまったくなかったのは、彼らの責任というわけではない。貧しくてその日その日の生活にカツカツの彼らが頭金分の金を貯めようとしたら、一生自分たちの店など持てないのだ。彼らは自分たちの夢を実現するために少し背伸びをして、成功をつかみ取るため一か八かの賭けをした。だがこうした賭けは往々にしてみじめな失敗に終わる。おそらく主人公は専門家にアドバイスされたとおり、すぐ店を売り払って借金を返し、身の丈に合った再スタートを切ればよかったのだろう。だが主人公にはそれができなかった。彼は最終的に店を手放すことになるが、自分の手を離れた店に大勢の客が入って賑わっている様子を、寂しげに見つめる場面には同情せざるを得ない。彼の目の付け所は間違っていなかったのだ。あとほんの少し資金があれば、彼は一か八かの賭けに勝つことができたのに……。だがそれを許さないのが、現実の社会というものなのだ。

 ギョーム・カネ演じるヤンが、欠点だらけの人間として描かれているのがいい。ヤンは自分の夢のため果敢に行動する積極性を持っているが、頑固で融通の利かないところもある。基本的には優しくて思いやりのある男だが、カッとなれば女性に手を上げることもあり、子供に危険なことをさせたり、暴言を吐くこともある。この男に比べると、恋人ナディアが欠点のない女性のように見えてしまうが、そこに最後で帳尻を合わせてくるあたりは脚本の上手さだろう。人は長所ではなく欠点ゆえに、相手を愛することがある。ナディアの見せる弱味によって、ヤンはそれ以前以上に彼女を愛するようになったのだ。

(原題:Une vie meilleure)

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2月9日公開予定 新宿武蔵野館
配給:パンドラ
2011年|1時間51分|フランス|カラー|シネマスコープ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://yoriyoki.net
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