マリーゴールド・ホテルで会いましょう

2013/01/11 20世紀フォックス試写室
イギリスのベテラン俳優が勢揃いした老人版「男女七人恋物語」。
イギリス人は旧植民地インドに癒される。by K. Hattori

Marigoldhotel  40年連れ添った夫が残した借金を返済するため、住み慣れた家を手放したイヴリン。なけなしの退職金を娘の起業資金に貸したことで、老後の計画が狂ってしまったダグラスとジーン。判事の職を投げ捨てて、長年の念願を叶えようとするグレアム。病気治療のため海外での手術を紹介されたミュリエル。人生最後になるかもしれない新しい恋を探す、マッジとノーマン。彼らはインドにある外国人高齢者向けの長期滞在型ホテル「ベスト・エキゾチック・マリーゴールド・ホテル」を目指して一路異国の地へ。だがそこにあったのはネットの情報とは雲泥の差がある、廃墟のようなおんぼろホテルだった……。

 引退後の資金不足を補うために、海外に移住するというのは日本でも時々聞く話。日本で毎月20万円程度の年金暮らしでは生きていくのにカツカツだが、海外に出向けば円高メリットがあるのでそこそこ余裕のある暮らしができる。景気がいい時期に日本人に人気があったのはオーストラリアやニュージーランド、スペインなどだったが、景気が悪化するに従って、移住候補地はマレーシア、タイ、フィリピンなどの東南アジアに移っていった。ただしこうした海外移住は、必ずしもバラ色のものではないらしい。物価は安くても、言葉が違う、気候が違う、文化が違う、食べ物が違う。現地で詐欺に遭うなどして所持金を失い、夢見ていたはずの生活が破綻してしまう人もいるという。この映画はそんな「老後の海外移住」のイギリス版だ。たくさんの夢を抱えて海外に行ったものの、そこで現実とのギャップに出くわしてあたふたした挙げ句、ある者は現地の環境に適応して新しい第二の人生をエンジョイし、ある者は現地に馴染めず去って行く。

 この映画は出演している俳優が立派すぎて、年配のイギリス人たちが、お金が余りないまま慣れない海外に放り出されてしまった切迫感があまりない。しかしこうしたリアリティの欠如が、この映画を大人のための新しいおとぎ話にしているのだと思う。こんなものをあまりリアルにやられても、観客は側は不安になってしまってしょうがない。イヴリンをジュディ・デンチが演じ、ダグラスをビル・ナイが演じてこそ、人生黄昏時のロマンスを応援できるのだし、人種差別主義者のミュリエルをマギー・スミスが演じているからこそ、この苦労人の女性が愛嬌のあるキャラクターに仕上がっているのだ。映画の中で一番リアルで等身大のキャラクターは、最後の最後までインドに馴染めないジーンだろう。演じているペネロープ・ウィルトンは損な役回りだが、こういう人物がいないとインドに来たイギリス人たち全員があまりにもウソっぽく見えてしまうはずだ。甘い煮豆を煮るためには、少し塩を入れないと味が引き立たない。ジーンはその塩の役目をしているのだ。

 老人ばかりの映画では気疲れしそうだが、ホテル再建を夢見る若いインド人青年と恋人の話がいいスパイスだ。

(原題:The Best Exotic Marigold Hotel)

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2月1日公開予定 TOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマ
配給:20世紀フォックス映画 宣伝:アルシネテラン
2011年|2時間4分|イギリス、アメリカ、アラブ首長国連邦|カラー|シネマスコープ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.foxmovies.jp/marigold/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
輸入DVD:マリーゴールド・ホテルで会いましょう
サントラCD:The Best Exotic Marigold Hotel
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