しんしんしん

2012/11/27 映画美学校試写室
1台のトラックに乗って移動していくテキ屋の家族の物語。
疑似家族の崩壊を描く青春映画。by K. Hattori

Shinshinshin  芳男は初老のテキ屋(露天商)だ。商いの内容はさまざまだが、最近はお好み焼きの屋台を出している。昔はずいぶんと羽振りがよかったようだが、今は不景気で各地の祭りや縁日も規模縮小されたのに加え、暴力団排除とやらの影響でテキ屋が締め出しを食うことも多い。博打や売春をなりわいとするヤクザとテキ屋では立場が大違いだが、世間的にはどちらも似たような者だとされているらしい。商売はすっかりだめになり、芳男は昔馴染みのスナックに入り浸って、半分ママのヒモみたいな暮らしをするまでに落ちぶれている。この芳男と同居して商売を手伝っているのが、高校生の朋之と兄貴分の裕也。ふたりとも芳男とは血のつながらない他人だが、芳男をオヤジと呼んで家族のような暮らしをしている。芳男は何だかんだ言って、面倒見がいいのだ。やがてこの家族に朋之と同級生のユキが加わった頃、一家は住んでいた家を追い出され、トラックに商売道具と家財一式を積み込んで旅に出ることになる。この旅には裕也の恋人明美も加わった。誰ひとり血がつながっていない、奇妙な家族の旅が始まるのだ。

 上記のあらすじは芳男を中心に書いたが、物語の主人公は高校生の朋之であり、彼とユキの関係を軸にしてドラマが進行してゆく。朋之はユキが好き。でもユキは裕也が好きで、その裕也には恋人の明美がいる。交差することのない、一方通行の愛情の連鎖。一家の旅にはやがて日向というもうひとりの家族が加わるが、そのあたりから家族の中に不穏なさざ波が立ちはじめる。旅の中で結束していた一家は、横浜で廃屋になりかけていた芳男のかつての家にたどり着くことで、大きくひき裂かれていくことになるのだ。芳男はかつて暮らした家で、別れた本当の家族との思い出に浸って酒に溺れる。芳男は疑似家族の家長として振る舞うことを放棄し、家族はむき出しの若い男と女の集団になって行ってしまう。

 寄る辺なき人々が肩寄せ合って疑似家族を形成し、そこに安らぎを見出すという映画はよくある。しかしこの映画は、そんな疑似家族の崩壊を描いている。疑似家族というフィクションは、そこに本物の家族の影が差し込んだときに崩壊するのだ。疑似家族の中にある、代用品の家族と家族愛に飽き足らなくなったとき、人はその共同体の中に留まれなくなってしまう。映画の中ではまず真っ先に、芳男が共同体から離脱してしまう。ユキはそんな芳男を支えるために、芳男の本当の家族を探しに行くが、結局そこでドツボにはまってしまう。もとよりこの家族は幻影に過ぎなかったのだ。しかしこの幻影の家族こそ、この映画の中では他のどんな家族よりも本物らしい。日向とその母親の関係は、家族と言えるだろうか。芳男とその息子の関係はどうだろうか。

 人はしょせん孤独な存在なのかもしれない。しかしその孤独を越えた向こう側に、この映画は何かしらの温かい希望のようなものを垣間見させる。

(原題:)

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11月17日公開 金沢シネモンド(特別先行上映)
1月12日公開予定 渋谷ユーロスペース
配給:諸田創 宣伝:坂井慧
2011年|2時間15分|日本|カラー|2.35:1|ステレオ|HD(REDONE 4K)
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