1937年5月6日にニュージャージーの飛行場で起きた、ドイツの大型飛行船ヒンデンブルグ号爆発事故の謎に迫るフィクション映画。同じ題材は1975年にロバート・ワイズ監督がジョージ・C・スコット主演で映画化しているが、今回の作品はそのリメイクなどではなく、同じ歴史的事件を題材にした新作だ。「映画」とは言うものの、この作品の出自はテレビ映画。オリジナルの長さは180分(3時間)で、言語はドイツ語だったとIMDbには記載されているが、今回の劇場公開バージョンはそれを1時間50分に再編集した英語版だ。「なんだ短縮版かよ」と思う人がいるかもしれないが、同じようなケースにはウォルフガング・ペーターゼンの『U・ボート』(1981)がある。これもテレビ用のミニシリーズを、劇場公開用に再編集したものだった。ヨーロッパの映画界では製作費を回収するため、同じ素材をテレビと映画館で使い回したり、吹替版を作ったりすることは昔からごく普通に行われている。こうした手法自体が、特別悪いというわけじゃない。
ただしこの映画については、内容にしろ完成度にしろどうかなぁ……と首をひねるところが多々あるのも確かだ。ヒンデンブルグ号に爆弾が仕掛けられ、主人公のドイツ人技師が爆弾を捜索して爆破を阻止しようとするサスペンスと、主人公がアメリカ人の社長令嬢と恋仲になるロマンスが絡まり合い、さらに飛行船に乗り合わせた亡命ユダヤ人や、ブロードウェイの芸人などが登場してグランドホテル形式のドラマが展開するという構成。しかし爆弾捜索のサスペンスがあるかと思えば、秘密文書を巡る別のサスペンスがあり、殺人容疑をかけられて窮地に陥っているはずの主人公が、数日前に出会った若い女と爆弾そっちのけでイチャイチャしているというのはいかがなものだろうか。ラブシーンが入ると、そこでサスペンスの緊張感が削がれてしまうのだ。婚約者が殺されたのに、婚約者殺しの犯人とイチャつくヒロインの気持ちもよくわからない。
ドラマ部分については一事が万事この調子で、見ていてガッカリするやら白けるやら。しかし映画に登場するヒンデンブルグ号は一見の価値がある。映画は冒頭でいきなり飛行船の爆発炎上シーンを見せるが、そこから時計を戻してヒンデンブルグの大西洋横断飛行に観客を同行させてくれる。全長245メートルの巨大飛行船が、フランクフルトの飛行場にある専用格納庫から姿を現す場面を見るだけでワクワクするではないか。音もなく優雅に飛び立った飛行船は、北大西洋の氷原の上をゆっくりと飛行して一路アメリカへ。乗客たちが集う豪華なラウンジや喫煙室、客室の様子も丁寧に再現されているのが興味深い。何しろ乗員乗客100人を運べるような大型の硬式飛行船は、現在この世に存在しないのだ。それをつぶさに見られるだけでも、この映画には価値がある。
(原題:Hindenburg)
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