ウェイバック

-脱出6500km-

2012/07/27 ショウゲート試写室
シベリアの収容所を脱走しインドまで逃げた男たちの実話を映画化。
脚本・監督はピーター・ウィアー。by K. Hattori

Wayback  1939年に第二次大戦が始まると、ポーランドは国土の西半分をドイツに、東半分をソ連に占領された。ドイツ占領地では大勢のユダヤ人が捕らえられ、強制収容所に送られるホロコーストが起きた。ソ連占領下でも大勢の軍将校や民間人が処刑されるカティンの森事件が起きているが、殺されないまでも、多くのポーランド人が理由もなく捕らえられて各地の収容所に送られた。シベリアの収容所に送られたヤヌシュ・ヴィスチェックも、そんな不運なポーランド人のひとりだ。彼はスパイ容疑という無実の罪で、25年の強制労働を命じられたのだ。収容所の環境は過酷を究め、衛生状態も食料事情も最低。飢えた収容者たちのむき出しの欲望と生存本能だけが支配する、この世の地獄だった。このまま収容所で死ぬより、自由になる可能性に賭けたい。ヤヌシュは他の収容者6人と共に、収容所からの脱出に成功する。目指すのはバイカル湖。そこから湖沿いに南下し、モンゴルに脱出する計画だ。だが彼らはその時、自分たちの旅がモンゴルから中国、チベットを越え、インドに至る長大で過酷なものになるとは思ってもみなかったのだ……。

 『マスター・アンド・コマンダー』から7年ぶりとなる、ピーター・ウィアー監督の新作映画。出演は主人公ヤヌシュを演じる『ワン・デイ 23年のラブストーリー』のジム・スタージェス以下、大ベテランのエド・ハリス、『つぐない』や『ラブリーボーン』のシアーシャ・ローナン、そしてコリン・ファレルといった顔ぶれで結構豪華。原作はスラヴォミール・ラウィッツの「脱出記―シベリアからインドまで歩いた男たち」で、1956年に出版されて以来世界各国で読まれたベストセラーだとのこと。しかしIMDbで調べたところ、映像化されたのはこの映画が初めてのようだ。厳冬のシベリアから、ゴビ砂漠、ヒマラヤに至るスケールの大きな旅は、その根底に共産主義国家に対する批判があるゆえに現地での撮影が困難だったということだろう。冷戦終了後に共産主義に対する批判が一通り出尽くして現地での撮影が可能になり、コンピュータを使った映像処理技術があってようやく、この映画の製作が可能になったということかもしれない。原作に対しては「事実ではなく創作ではないか?」という批判もあるようだが、第二次大戦中にソ連の収容所から脱走したポーランド人が少なからずいたのは事実のようだ。

 脱走後の旅は壮大なスペクタクルだが、それよりこの映画で大きな見どころとなるのは、スターリン時代のソ連がシベリアに作った強制収容所の描写だ。映画では収容者が森林伐採や炭鉱での労働に駆り立てられる様子が描かれているが、第二次大戦後のシベリア抑留では、多くの日本人が同じような労働に従事させられた。シベリア抑留による日本人死者は6万とも7万とも言われているから、この映画に登場するシベリアの収容所は、日本人にとって他人事ではないのだ。

(原題:The Way Back)

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9月8日公開予定 銀座シネパトス
配給:ショウゲート 宣伝:スキップ
2010年|2時間14分|アメリカ、UAE、ポーランド|カラー|シネマスコープ|SRD、DTS
関連ホームページ:http://wayback.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
原作:脱出記ーシベリアからインドまで歩いた男たち(スラヴォミール・ラウィッツ)
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