中米コスタリカの住宅街で、メキシコ人の女性医師が誘拐された。彼女の正体はCIAのエージェント。彼女は膨大な資金を持つ麻薬王のクリストと、東南アジアを拠点にする国際テロリスト、シャバールの関係を探っていたのだ。彼女を救出すべく、海軍特殊部隊ネイビーシールズに出動命令が下った。目指すはジャングルの奥にあるテロリストたちの隠れ家。パラシュート降下した隊員とボートで接近する支援部隊のチームワークで、女性エージェントは無事に確保された。だがそこで彼らが知ったのは、新型自爆兵器でアメリカ主要都市を標的にする大規模なテロ計画だった。このテロを率いるシャバールはメキシコからアメリカに越境しようとしている。これを国境線で阻止すべく、シールズたちは米墨国境の町メヒカリへと向かうのだった……。
有名なスターは誰ひとり出演していないものの、見応えのあるアクションに唸らされる映画だ。ネイビーシールズは20年以上前にチャーリー・シーンとマイケル・ビーン主演で『ネイビー・シールズ』(1990)という映画が作られているが、僕自身が強く印象に残っているのはマイケル・ベイ監督の大ヒット作『ザ・ロック』(1996)だ。元海兵隊員たちが立てこもるアルカトラズ島に突入し、投降することを拒んで全員が壮絶に散って行く姿は劇中でも名場面のひとつだと思う。描かれているのは軍人としての誇りと、仲間同士の固い結束。そうした要素は今回の映画『ネイビーシールズ』にも生きている。
この映画は「組織の歯車」として生きる人間を賛美する映画だ。巨大な悪に、個人の力で立ち向かうのは限界がある。クリプトン星人のスーパーマンならいざ知らず、生身の人間がひとりでできることはたかが知れている。だから人は組織を作る。組織の力で巨大な力に対抗する。「組織の歯車になる」ことを嫌う人もいるが、巨大組織は全部が同じ形の歯車では成り立たない。大小さまざまの歯車を適材適所に組み合わせることで、巨大組織はその力を発揮する。つまり歯車はどれも個性的なのだ。この映画に登場するのも、そうした個性的な男たちだ。2時間弱の映画ではその個性をすべて描き尽くすことはできないが、何人かはその中からピックアップされて、背景となる人生模様などを丁寧に描写している。
ネイビーシールズ全面協力で撮影されている映画で、登場する兵器や装備はもちろん、登場する隊員たちまですべて本物だという。どうもこの映画、ネイビーシールズ側は部隊のPRを兼ねて協力を了承したようなのだ。とはいえシールズたちがテロ組織と戦うという設定は、完全なフィクション。これは海でも空でも陸でも戦えるシールズの特性を十分に生かすため、描きたいシーンから逆算して作りだした物語だと思う。シールズの凄さを、全部映画に盛り込みたい。そんな欲張りな要望が、映画のアクションシーンを分厚いものにしている。
(原題:Act of Valor)
DVD:ネイビー・シールズ
ノベライズ:ネイビーシールズ |