画皮

あやかしの恋

2012/06/07 京橋テアトル試写室
人間の男に恋した妖怪と男の妻の三角関係。
原作は聊斎志異の中の一篇。by K. Hattori

Gahi  秦漢時代の古代中国。辺境の町を盗賊の襲撃から守る守備隊のワンシェン将軍が、盗賊征伐からひとりの女を連れて戻ってきた。女の名はシャオウェイ。盗賊団に誘拐されていた彼女は、もはや頼るべき身寄りもないという。王生は妻のペイロンと相談の上、彼女を家族の一員として屋敷に住まわせることにする。だがそれからしばらくして、町では夜な夜な奇妙な殺人事件が起きるようになった。殺された人は皆一様に心臓をえぐられていたのだ。警備隊は犯人探しに躍起になるが、その手がかりすらつかむことができない。そんな不穏な状況下、町には数年前から姿を消していた守備隊の前隊長が戻ってくる。ひょっとすると彼が殺人事件の犯人なのか? 同じ頃若い女降魔師も、妖魔の気配を察知して町にやって来ていた。

 原作は中国清代に蒲松齢が書いた短編小説集「聊斎志異」の中の一篇「画皮」。何度も映画やドラマになっている中国圏ではお馴染みのストーリーらしいが、今回の映画は人間の心臓を食らいながら千年も生きてきた妖狐がどうやって将軍の妻の座を奪い取るかというサスペンスに、チャンバラアクションをたっぷり盛り込んだ豪華版。原作とはだいぶ雰囲気の違う物語に仕上がっているが、これが原作からの自由な脚色によるものなのか、それとも過去に映像化された作品で使われた脚色を参考にしているのかはわからない。

 いずれにせよこの映画はラブストーリーの要素に力を入れていて、将軍を巡る正妻と妖魔の三角関係を中心に、将軍の妻に想いを寄せる前将軍や、愛する妖魔のために人間を殺し心臓を集めてくる別の妖怪など、愛をめぐる複雑な人間関係(妖怪もいるけど)が物語の厚みを作りだしている。ただし登場人物(妖怪も含む)が全員、愛だの恋だの騒いでいる様子は、少々面倒くさいような気がしないでもない。妖魔もとっとと将軍の正妻を殺してしまえばいいものを、変に策を巡らせてややこしいことをするから、結局は身を滅ぼすことになってしまったのではないだろうか。

 登場人物たちの中心にあるべきワンシェン将軍はイケメンだが、他の存在感が希薄で弱々しく感じられる。盗賊の本拠地を襲撃してシャオウェイを救出するくだりはかっこいいのだが、町に戻ってからは精彩に欠けるのだ。何にしても態度が曖昧。パンヨンに殺人犯の疑いがかかった時も、疑っているのか信じているのかはっきりしない。町に戻ってからは彼が物語をリードしていく場面がないとは言え、少し印象的なエピソードなり台詞なりがあれば、この役柄はもっと引き立ったと思う。

 タイトルの『画皮』とは、妖怪が人間に化ける時に使う人間の絵が描いてある皮のこと。原作に登場する画皮では、そこに若い女の絵を描けば若い女に、老婆の絵を描けば老婆になることができる。ただし映画では何通りにも化けられるという設定は捨てられている。

(原題:Painted Skin 畫皮)

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8月上旬公開予定 有楽町スバル座
配給:太秦
2008年|1時間43分|シンガポール、中国、香港|カラー|シネマスコープ|ドルビーSR
関連ホームページ:http://www.gahi-movie.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:画皮 あやかしの恋
原作:中国怪異譚 聊斎志異〈1〉
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