屋根裏部屋のマリアたち

2012/06/06 シネマート六本木(スクリーン3)
株式仲買人の男が若いスペイン人家政婦に惹かれていく。
1960年代のパリを舞台にしたコメディ。by K. Hattori

Yaneurabeyano  1962年のパリ。証券会社の経営者ジャン=ルイは、長年雇ってきた家政婦ジェルメーヌの反抗的な態度に頭を悩ませていた。ジェルメーヌは半年前に亡くなったジャン=ルイの母を慕っており、一家の新しい女主人となったジャン=ルイの妻シュザンヌに悪態をつく始末。結局家政婦は家を出て行ってしまい、ジャン=ルイとシュザンヌは家事をしてくれる新しい家政婦を雇うことになった。当節の流行りは家政婦にスペイン人を雇うこと。シュザンヌは家政婦の斡旋をしているというスペイン人教会を訪ね、パリにやって来たばかりのマリアという若い女性を雇うことにした。ジャン=ルイも新しい家政婦に大満足。しかし彼はこの出来事をきっかけに、スペイン人家政婦たちの生活ぶりや、スペインという国そのものに強く引かれていくことになる……。

 主人公のジャン=ルイ・ジュベールを演じるのはファブリス・ルキーニ。妻シュザンヌをサンドリーヌ・キベルランが演じ、家政婦のマリアをナタリア・ベルベケが、マリアの叔母でスペイン人家政婦たちのリーダー格コンセプシオンを『ボルベール〈帰郷〉』のカルメン・マウラが演じている。監督・脚本はこれが6本目の監督作品となるフィリップ・ル・ゲイ。1956年にパリで生まれた彼は子供時代にスペイン人家政婦に育てられた経験があり、この映画はそんな子供時代の思い出からアイデアが生まれたのだという。監督の父親も株式仲買人。ル・ゲイ監督はこの映画に自伝的要素はないと言うが、この映画が監督自身の生い立ちの中から生まれてきた作品であることは間違いないと思う。

 主人公のジャン=ルイは屋根裏部屋に古い家具を片付けに行くことで、屋根裏部屋の小部屋に暮らすスペイン人家政婦たちと親しくなり、共同便所の詰まりを直すために業者を呼んでやったことから、彼女たちの絶大な信頼を取り付ける。マリアの給料要求をすんなり呑んでしまったことも含めて、このあたりの導入部は上手い。ただしその後彼が、スペイン人家政婦たちの世界にドップリと引き込まれていくあたりは、もうひとつ説得力に欠けるのだ。マリアに対する恋愛感情があるにせよ、それが表立って語られることはないので、話の流れがぎくしゃくしてしまう。導入部は流れるように展開がスムーズだったが、その後の展開にはよどみが出ている。これが再び流れ始めるのは、映画の終盤になってからのことだ。

 子供の頃から自分の生き方を規定され、判で押したように繰り返される毎日の生活に何の疑問も抱かなかったジャン=ルイ。彼にとって目先の関心は、朝食の卵の茹で加減だけなのだ。そんな彼がマリアと出会い、スペイン人家政婦たちの世界を垣間見ることで、自分がまったく予想もしなかった新しい人生に導かれて行く物語。ノスタルジックなムードの漂う、『ALWAYS 三丁目の夕日』にも相通ずる大人のおとぎ話だ。

(原題:Les femmes du 6eme etage)

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7月21日公開予定 Bunkamuraル・シネマ
配給:アルバトロス・フィルム 宣伝:アルシネテラン
2010年|1時間46分|フランス|カラー|ビスタサイズ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://yaneura-maria.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:屋根裏部屋のマリアたち
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