テルマエ・ロマエ

2012/05/19 TOHOシネマズ錦糸町(スクリーン2)
古代ローマの浴場技師が現代日本にタイムスリップ。
同名人気コミックの実写映画化。by K. Hattori

Thermaeromae  ヤマザキマリの同名人気コミックの実写映画化。連作短篇である原作をどう長編映画にするか、製作者としてはいろいろと知恵を絞ったと思う。同じように連作短篇コミックの映画化でも手塚治虫の「ブラック・ジャック」なら、キャラクターが周知されているのでどうとでもエピソードの膨らませようがあるのだろうが、「テルマエ・ロマエ」はキャラクターより状況設定の面白さが優先するのでそうも行かない。結局前半は原作を踏襲して主人公が古代ローマと現代を行ったり来たりし、後半ではそのタイムスリップに現代の若い女性など諸々を巻き込みながら、原作を下敷きにした少し長めのオリジナル・エピソードを付け加えている。

 僕は原作単行本の1巻が話題になった頃に購入して読み、その後も単行本が出るたびに買い続けている原作の愛読者だ。手持ちの単行本は1巻が初版第8刷で、2巻以降はすべて初版初刷になっているから間違いない。とはいえ原作と映画は別物であり、僕も最初からこの映画が原作通りになるとは考えていない。むしろ原作をどうアレンジして長編化するかが楽しみでもあったのだが、これは映画としてあまりにも中途半端なものではないだろうか。

 映画の中では阿部寛扮する古代ローマの浴場技師ルシウスと、上戸彩が演じる現代日本の漫画家のタマゴ、山越真実のエピソードが並行していて最後に合流するという構成。しかしルシウスがなぜ何度も真実のところに現れる必要があるのかが、映画の中ではまったく何も説明されていない。真実は映画の後半になって突然現れても同じなのだが、とりあえず意味もなく映画の前半から登場しているだけだ。映画後半で真実の実家の温泉宿から常連客たちが一斉に古代ローマにタイムスリップするに至っては、さらに意味がわからない。この常連さんたちは古代ローマに行っても、特に何の役にも立っていないだろう。古代ローマと現代日本のエピソードが最後に合流するという意味はわかるが、そのために意味もなく大勢の人が登場しても、話が薄まるだけではないか。

 脚本は『クローズZERO』や『シュアリー・サムデイ』の武藤将吾が書いているのだが、おそらくあまり脚本を練り込まないうちに、プロデューサーが思いついたアイデアか何かで見切り発車してしまったのだろう。結果として原作から離れて行く後半になると、話はスカスカで中身がなくなる。終盤は古代ローマ皇帝の後継者を巡る政治的陰謀のような話になるが、ケイオニウスを陰謀をたくらむ腹黒い人物にするなら、女たらしの軟弱な性格を原作から継承する必要はなかった。また皇帝位の継承という歴史的な問題を扱いながら、戦争がバル・コクバの乱(第二次ユダヤ戦争)であることをぼかしたり、2世紀のローマ人であるルシウスがなぜか6世紀に発明された西暦を知っていたりと奇妙なところだらけ。皇居の堀は風呂でも温泉でもないぞ。

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4月28日公開 全国東宝系
配給:東宝
2012年|1時間48分|日本|カラー|シネマスコープ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://www.thermae-romae.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
サントラCD:テルマエ・ロマエ
ノベライズ:テルマエ・ロマエ 〜小説版〜
原作:テルマエ・ロマエ
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