ブラック・ブレッド

2012/05/17 京橋テアトル試写室
内戦の傷を残す小さな村で起きた陰惨な殺人事件の真相。
もう少し尺があればよかったなぁ。by K. Hattori

Blackbread  スペイン内戦の終結から間もないカタルーニャ。鬱蒼とした森に囲まれた山間部の小さな村で、父親と幼い息子が何者かに殺された。事件の第一発見者になった少年アンドレウは父と一緒に警察に通報するが、殺された男がかつて父と親しかったことから、警察はアンドレウの父を容疑者としてマークする。このままでは犯人にされてしまうと身を案じた父は、フランスにいる親戚を頼って国境を越えるという。アンドレウも母の手を離れて、祖母の家に預けられることになったのだが……。

 1件の殺人事件がきっかけで、小さな村が抱え込んだ血なまぐさい過去が少しずつ明らかになるという物語。ただし1時間53分の映画の中にかなりの人数が登場し、現在と過去が交錯しながら展開してゆくドラマは筋を追うのに精一杯。よくわからないまま、あっと驚く事件の真相が明らかにされて、あっと言う間に映画自体が終わってしまう。殺人事件の犯人探しというミステリーだけに注力すれば、この時間でも十分に映画は成立するのだろう。しかしこの映画ではミステリー以外の部分で、物語が何度も脇に寄り道していく。そのため謎解きミステリーの本筋が断続的・断片的にしか語られず、最後の種明かしやその後の決着などにしっくり来ないものを感じてしまうのだ。騙されたとか、腑に落ちないというのではない。映画のエンディングで「ああ、なるほどな」とは思うのだが、そこに映画の流れが集約していないため、劇的な場面にしては淡々とした印象しか残らないのだ。

 しかしこれをミステリー中心に組み立てても、この映画が持つ不気味で不条理な味わいは出せないだろう。この映画はひとつの殺人事件をきっかけにして、村の中にくすぶっている人間同士の軋轢が露わになってくるところが面白いのだ。アンドレウの母に言い寄る町長とか、スペイン内戦時代の敵対関係とか、アンドレウの従姉妹ヌリアの幼く危険な誘惑とか、ヌリアとただならぬ関係になっている小学校教師とか、村人たちが過去に起こした血なまぐさい事件とか、村はずれにある精神病院の若い患者とか、そうした一切合切が、幼いアンドレウの前に突然どっと立ち現れてくる。父親が巻き込まれた事件も、そうした一切合切の中のひとつなのだ。

 これは親に庇護されて育ってきたアンドレウという少年が、親のもとから巣立って行く物語だ。しかしこの巣立ちの何と残酷なことか。両親は子供のために何をしたのか。子供はそれをどう受け止め、受け入れるべきなのか。父親の抱えた巨大な矛盾と葛藤。それを理解し受け入れているがゆえに、子供の目には冷酷で残忍に見える母親の姿。彼らに他の選択肢はなかったのか? おそらくそれはなかった。だがその原因は、内戦にあったのか、それとも村の貧しさにあったのか。それは今さら問うても仕方のない問い。彼らは決して抵抗のできない巨大な何かに負けたのだ。

(原題:Pa negre)

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6月23日公開予定 銀座テアトルシネマ、ヒューマントラストシネマ渋谷
配給:アルシネテラン
2010年|1時間53分|スペイン|カラー|ヨーロピアンビスタ|ドルビーステレオSR
関連ホームページ:http://www.alcine-terran.com/blackbread/
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