ベルフラワー

2012/04/18 シネマート六本木試写室
失恋男の果てしなき魂の暴走を誰も止められない!
独特のスタイルがあるインディーズ映画。by K. Hattori

Bellflower  映画『マッドマックス』の世界に憧れるウッドローとエイデンは、これといった定職に就くことなく、世界秩序崩壊後の世界に備えて火炎放射器や改造車を作っているイカレた二人組だ。だがこんな奴らでも彼女はできる。酒場で知り合ったミリーと仲良くなったウッドローは、互いの家に入り浸ってはイチャイチャする夢のような時間を過ごすのだが、それはそう長くは続かなかった。ウッドローの留守中に、ミリーが別の男を部屋に引っ張り込んで抱き合っていたのだ。ショックを受けて部屋を飛び出したウッドローは、交通事故で大ケガを負ってしまう……。

 映画業界で働くことを夢見てウィスコンシンからカリフォルニアにやって来たエヴァン・グローデルが、自らの失恋体験をもとに作り上げた自主製作の長編映画デビュー作。映画製作に有り金をはたいても追いつかず、働いて金を貯めては映画を撮り足していったため、撮影には3年もの時間がかかってしまったという。そのためグローデルが演じている主人公の顔つきや体型が映画の中でかなり変わっているのだが、それが悪いかというと、必ずしもそうはなっていないのが映画の面白いところだ。むしろ失恋のショックで別人のように変貌したウッドローを、目に見える形で表現したような効果を生み出している。

 映画の意匠としては、ひどく荒々しくて大胆な映像やシーンが目立つ。巨大な炎を吹き出す火炎放射器。夜空にマフラーから火炎を吹きながら、土煙を蹴立てて疾走する黒塗りの改造車。コントラストの強いシネマスコープサイズの画面には汚れがこびりつき、カラーバランスが悪くて色飽和している。だがその中で繰り広げられる物語は、まるで中学生か高校生の失恋話のように切なくて純粋な傷心の物語になる。恋人に振られて傷ついて、慰めにやって来た恋人の親友と仲良くなって、それでもやっぱり元の彼女が忘れられない。裏切った彼女が許せない。彼女を奪った男が許せない。でもその怒りや憎しみを、どこにも持って行きようがなくて空回りする感情に、火炎放射器の炎がドドーンとかぶさり、特殊改造した車のエンジン音がガガガガガッと響き渡って増幅していくわけだ。

 映画としてはいろいろと面白いところもあるのだが、僕はミリーを演じたジェシー・ワイズマンがまったく好みのタイプではないので気分的に乗れなかった。後からやって来て仲良くなるコートニーの方が可愛いじゃん!と思ってしまうのだ。裏切られた、振られたというのは、それとはまったく別の話なのかもしれないが、こういう話は観客も「コニーはいい女だなぁ」と共感できないと成立しないのではないだろうか。まあ登場した途端にコオロギをむさぼり食っていた女だから、「いい女だなぁ」と思わせるためのハードルはどうしたって高くなるわけだけれど……。最初から観客の共感を拒絶しているという点で、これはとてもユニークな映画だと思う。

(原題:Bellflower)

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6月公開予定 シアターN渋谷
配給:キングレコード、ビーズインターナショナル、日本出版販売
2011年|1時間46分|アメリカ|カラー|スコープサイズ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.bellflower-jp.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
サントラLP:Bellflower
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