ラム・ダイアリー

2012/03/30 ショウゲート
1960年のプエルトリコで新人記者が見た不思議な世界。
ジョニー・デップの製作・主演作。by K. Hattori

Rumdiary  ジョニー・デップ主演で映画化された『ラスベガスをやっつけろ』の原作者、ハンター・S・トンプソンの自伝的小説を、再びジョニー・デップ主演で映画化した作品。ジョニー・デップの設立した製作会社インフィニタム・ニヒルの第1回作品であり、デップは本作に製作者としても名を連ねている。脚色・監督はブルース・ロビンソン。共演はアーロン・エッカート、リチャード・ジェンキンス、マイケル・リスポリ、ジョヴァンニ・リビジ、そしてアンバー・ハードなど。

 物語の舞台は1960年のプエルトリコで、実際その年にプエルトリコの新聞社勤めをはじめた原作者トンプソンの体験談が物語のベースになっているようだ。トンプソンは1937年生まれだから、この時20台前半の若者だ。映画を観ると脚本の上では主人公のポールが「若造」として描かれている部分もあるようで、映画の中で主人公をジョニー・デップが演じることからちぐはぐな部分も出てきてしまう。脚本を書いたブルース・ロビンソンは主人公のキャラクターをジョニー・デップ主演前提であて書きしているはずだが、それでもやはり話が不自然になってしまっている部分がある。例えば主人公が作家志望のライターで、過去に何の実績も持っていないという部分などは、彼の「若さ」が前提になっているはずだ。「僕にはまだ自分の文体というものがない」という台詞も若造だから成り立つわけで、中年ライターが今さら言うようなことではないだろう。(中年ライターである僕が自分の文体を持っているかというと、それはまた別の話だけれど……。)

 1960年のプエルトリコを再現した美術など見どころもあるが、映画としては中途半端な作品だ。個性的すぎる人物が次々に出てきて怪しげな行動を繰り返す話でありながら、これはドタバタコメディというわけではない。三角関係のラブストーリーとしてはとうが立ちすぎているし、怪しい詐欺話にまつわる陰謀めいた話にしたいわけでもない。ひとりの青年ジャーナリストが異郷の地で成長する青春ドラマでもないし、飲んだくれの落ちこぼれ人間たちの吹き溜まりを夢の世界のように描くユートピアものでもない。ジョニー・デップが主演でなければおそらく誰も見向きもしない映画で、そのジョニー・デップも劇中で何かとてつもなく面白いものを見せてくれるわけではない。ヒロイン役のアンバー・ハードは、プレス資料によれば『スカーレット・ヨハンソンと並ぶ色気をもつ』なのだとか。確かに同系統の女優のような気はするが、僕はそもそもスカーレット・ヨハンソンにあまり色気を感じないので、この女優さんもどうかなぁ……という感じだ。

 ジョニー・デップ自身が原作者と友達で、この原作に惚れ込んでいて、この映画を作りたくて、そのためには自分が製作するだけではなく主演もしなければお金が集められなくて……という、作り手側の事情ばかりが透けて見える映画だ。

(原題:The Rum Diary)

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6月30日公開予定 新宿ピカデリーほか全国ロードショー
配給・宣伝:ショウゲート 宣伝:スキップ
2011年|2時間|アメリカ|カラー|ビスタサイズ|SRD
関連ホームページ:http://rum-diary.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
サントラCD:Rum Diary
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原作:ラム・ダイアリー
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