friends after 3.11【劇場版】

2012/02/13 サンプルDVD
2011年3月11日の東日本大震災によってあぶり出される日本の姿。
定点観測的に今後もシリーズ化することを望む。by K. Hattori

Friendsafter311  昨年秋からCS朝日ニュースターやBSスカパー!で繰り返し放送された、岩井俊二監督のドキュメンタリーを劇場用に再編集した作品。2011年3月11日の東日本大震災とその後の福島原発事故を踏まえて、国論を二分する大議論になっている原発問題(反原発や脱原発)を問う内容になっている。作り手の立場が明確に反原発や脱原発なのは映画を観れば一目瞭然だが、それに「公平ではない」と目くじらを立てる必要はない。「客観報道」を建前とするマスコミが国民感情を無視して政府と東電からの大本営発表を垂れ流し、原発推進にお脱原発にも舵を取ることなく日和見を決め込んでいるのだから、こうした明確な論点を持った映画の存在はむしろ小気味よく感じるのだ。

 映画の中に出てくる人たちは、筋金入りの反原発運動家などではない人たちがほとんどだ。岩井監督本人が映画の中で、「3.11以前には原発のことなんて何も考えていなかった」と言っている。それは山本太郎もそうだろうし、松田美由紀も同じだろう。それどころか、日本人のほとんどが同じだったと思う。僕も含めて多くの日本人は、原発について何も考えていなかった。原発の危険性や、放射性廃棄物の最終処分問題などの問題について、何となく耳にしていたかもしれないし、本を読んだり、新聞を読んだり、テレビの討論番組を見たりしたこともあるかもしれない。それについて何らかの自分の意見を持っていた人もいると思う。でもそれは3.11以前、やはり「他人事」だったのだ。少なくとも誰は、それを自分の日常と地続きの世界で起きている出来事だとは思っていなかった。対岸の火事だった。3.11後の今となっては、無知だったとしかいいようがない。

 映画は多くの人々の断片的なインタビューで構成されているため、全体としてはとりとめのないものになっている。持ち出されている話のテーマもバラバラなら、述べられていることもバラバラなのだ。しかしこの映画に関して言うなら、僕はこの構成で構わないと思う。3.11以後に一気に吹き上げた多種多様な意見を、ひとまとめに拾い上げて並べてみせたという点にこの映画の価値があると思うからだ。この映画は今から1年後、2年後、5年後に見れば、内容がどうしようもなく古びてしまうだろう。主張されている内容のうち幾つかは(あるいは大部分が)、誤った事実認定によって語られていたことが明らかになるかもしれない。そういう意味でも、この映画は今この時に見ておかなければならない映画なのだ。この映画には、今この時に、同じ時代を生きる人たちに向けたメッセージがたくさんある。それを今この時に観ずして、いったいいつ観るというのか。

 と同時に、岩井俊二監督にはこれと同じコンセプトの映画を、今後も数年おきに作り続けて欲しいと思う。それは3.11後の日本の言論が、いかに変遷していったかを示す貴重な記録になるだろう。

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3月10日〜23日公開予定 オーディトリアム渋谷
配給:ロックウェルアイズ
2012年|2時間15分|日本|カラー|16:9|ステレオ
関連ホームページ:http://iwaiff.com/fa311/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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