FLY!

〜平凡なキセキ〜

2012/01/30 シネマート六本木試写室
これは町工場の工員を主人公にした日本版の『E.T.』だ。
宇宙人を演じるのは温水洋一。by K. Hattori

Fly  大阪の町工場に勤める平野満男は、無口で真面目だが要領の悪い30歳の独身男。同じ工場で事務員をしているシングルマザーの高崎ななみに恋心を抱いているが、そのことを口にできないまま彼女の前ではぎこちない態度を取ってしまうダメな男だ。その満男が偶然見つけたのは、銀色に輝く小型宇宙船と緑色の顔の宇宙人だった。言葉が喋れず脚にケガをした宇宙人をとりあえず自宅に運んだ満男は、宇宙人のために食料を買い出しに出たスーパーで偶然ななみに会ったことから、彼女に予想もしない誤解をされることになってしまう。

 主演は吉本新喜劇の座長でもある小薮千豊。ヒロインのななみを相武紗季が演じ、宇宙人のシカタを温水洋一が演じる異色のキャスティング。この映画は突拍子もないストーリーなのだが、少し観ればこれがスピルバーグの名作『E.T.』を下敷きにしていることがわかる。地球で迷子になった宇宙人と主人公が友達になり、政府機関による宇宙人捕獲などのサスペンスとアクションがあって、最後に宇宙人は生まれ故郷の星へと帰って行く。『E.T.』のフォロワー作品としては昨年公開されたJ・J・エイブラムス監督の『SUPER8/スーパーエイト』があるが、僕は『SUPER8』よりこの『FLY!』の方がずっと好きだ。町の地下に穴を掘って捕らえた人間を食べる『SUPER8』の宇宙人より、主人公と宇宙人の友情を軸にした『FLY!』の方が『E.T.』の正統な後継者と言えるのは明らかだろう。

 『E.T.』は子供たちと、子供の心を失わない大人のためのファンタジーだったが、『FLY!』はそれよりずっと下世話なところが面白い。この下世話さは、主人公たちの年齢を『E.T.』よりぐっと上に引き上げることで、物語に恋愛要素を取り入れた部分にある。この映画はSFというよりラブコメなのだ。『E.T.』は前思春期の少年少女を主人公にして恋愛を物語からオミットしていたし、『SUPER8』は思春期の少年少女を主人公にしながらも、それはあくまで少年少女の初恋物語だった。『FLY!』は主人公が30男でヒロインがシングルマザーだから、そこにはセックスの問題も出てくれば、結婚という生活上の問題も出てくる。こうした前提があればこそ、主人公が新入りの美人ホステスに言い寄られてドギマギする様子にきれい事でないリアリティが生じるのだ。

 主人公はシングルマザーの同僚事務員が好きだったのだから、ここでホステスに言い寄られてなびくのは不誠実なようにも見える。しかしこれはなびくのである。なびくのが男なのである。男とはそういうものなのである。この映画はそんな男の姿を否定せず、悪びれることなく、さらりと自然に撮っているところがいい。これがこの映画にとって最大の、地に足の付いたリアリズムだと思う。低予算の映画ではあるだろうが、僕はこの映画を高く買っているのだ。

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3月10日公開予定 シネマート新宿、シネマート六本木、シネマート心斎橋
配給:よしもとクリエイティブ・エージェンシー
2011年|1時間47分|日本|カラー
関連ホームページ:http://fly-the-movie.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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