断絶

2011/11/17 シネマート六本木試写室
自動車レースで今だけを生きる若者と中年男の旅。
モンテ・ヘルマン監督の代表作。by K. Hattori

Danzetsu  1950年代から60年代にかけてのハリウッドは、テレビの普及と、それに対抗したハイリスク・ハイリターンの大作スペクタクル映画の製作で疲弊していた。その間隙を突いて若い映画ファンたちの注目を浴びたのが、ヨーロッパの若い監督たちの作品(ヌーヴェル・バーグ)と、若者市場をターゲットにしたロジャー・コーマンのB級娯楽映画だ。これに目をつけたハリウッドのメジャー・スタジオは、B級映画で頭角を現した新世代の監督たちを引っ張り込んで、若者向けの新しい映画を撮らせようとする。こうしてアメリカン・ニューシネマと呼ばれる映画が誕生する。第1号はアーサー・ペンが1967年に撮った『俺たちに明日はない』。最初は様子見を決め込んでいた各映画会社も、1969年に『イージー・ライダー』がバカ当たりすると、こぞってこのジャンルに乗り込んできた。

 モンテ・ヘルマン監督の『断絶』もそんなアメリカン・ニューシネマの1本であり、草レースで賞金を稼ぐ若者たちが、スポーツカーを乗り回す中年男と車を賭けて長距離レースをするというプロットはいかにも若者向け。ニューシネマを代表する俳優のひとりウォーレン・オーツが中年のドライバーを演じ、人気歌手のジェームス・テイラーと、ビーチボーイズのデニス・ウィルソンが彼に戦いを挑む若者を演じている。製作したユニバーサルはこの映画にずいぶん期待したようだが、出来上がった映画はスタジオの思惑とはずいぶん違う地味なもの。興行的にも惨敗して、この映画以降、モンテ・ヘルマンはメジャースタジオで映画を撮る機会を失ってしまった。ヘルマンはその後コーマンの製作で『コック・ファイター』を撮るが、それも興行的には芳しい成果を上げられなかった。『断絶』はヘルマン監督にとって最初のつまずきであり、彼が「呪われた映画監督」と言われるきっかけを作った作品なのだ。

 この映画の特徴は登場人物が全員匿名であり、しかもどの人物も過去の来歴が見えない点にある。登場人物たちの名前は「ザ・ドライバー」であり「ザ・メカニック」であり「ザ・ガール」であり「GTO」なのだ。彼らはどこから現れたのでもなく、従ってどこにも行くことができない。ザ・ガールは突然物語の中に現れ、また突然去って行く。GTOの過去は彼自身の饒舌な言葉の中でくるくると目まぐるしく変化してつかみ所がなく、行き先についてもフロリダなのか、NYなのか、ワシントンDCなのか、シカゴなのかわからない。彼の経歴からは過去が失われ、行くべき場所もまたないのだ。ただしひとつだけ映画から伝わってくることがある。それはこの映画の登場人物たちが全員、巨大な喪失感を抱えていること。失われたものは、二度と取り戻せないということ。彼らは失ったものに変わる何かを探そうともがくが、彼らの行く手にが見つかることはないことを暗示して映画は終わる。

(原題:Two-Lane Blacktop)

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2012年1月公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給:boid 宣伝:VALERIA
1971年|1時間42分|アメリカ|カラー|シネマスコープ
関連ホームページ:http://www.mhellman.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:断崖
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