永遠の僕たち

2011/11/14 SPE試写室
死に引き付けられた少年と難病の少女の純愛ドラマ。
幽霊の役で加瀬亮が出演。by K. Hattori

Eienno_bokutachi  高校を中退した後、何をするでもなくぶらぶらと怠惰な日常を送っているイーノック。彼の趣味は事故や自殺の死体に扮して地面に寝転がり、体の周囲にチョークで線を引くことと、喪服を着て見ず知らずの人の葬式に潜り込むこと。家族は一緒に住んでいる叔母がひとり。友人と言えそうなのは、彼にしか見えない日本人特攻パイロットの幽霊ヒロシだ。ある葬式で、イーノックはアナベルという少女に出会う。一目で彼を「偽参列者」だと見抜いたアナベルは、どういうわけかその日以来彼に付きまとうようになる。そしてある葬儀でイーノックが葬儀社の職員に詰め寄られているところを助け出し、ふたりは親しく話をする間柄になるのだ。やがて彼女は、自分が難しいガンで余命三ヶ月であることを告げる。イーノックもまた、自分の両親が交通事故で亡くなり、彼自身も一時的に死んでいたことを告白する。「死」によって結びつけられたふたりは、戯れとも本気ともつかないふたりだけの特別な関係を深めていくのだった……。

 映画のジャンルとしては『ある愛の詩』のような難病ものだが、主人公イーノックの「死体ごっこ」や「葬式ごっこ」は、ハル・アシュビーの『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』に似ている。おそらく作り手もそれは十分に意識していたはずだ。ただし主人公の行動の切実さという点では、本作のイーノックの方がより深刻かもしれない。彼は事故で昏睡中に一度臨床的には死を経験しているが、本人にはその記憶がまったくない。彼の昏睡中に両親の葬儀が終わってしまったため、彼が目を覚ましたときにはすべてが終わった状態だった。彼は当然経験すべき両親の死を奪われ、自分自身の死からも疎外されている。彼の「死体ごっこ」や「葬式ごっこ」は、奪われた死を取り戻そうとする行動なのだ。主人公のイーノックという名前は旧約聖書の創世記に出てくるエノクに由来するもので、エノクは365年生きてそのまま天国に引き上げられたとされている。つまり死を経験することがない男の名前がエノク(イーノック)というわけだ。

 本作を『ある愛の詩』や『ハロルドとモード』と決定的に異なったものにしているのは、主人公の唯一の友人として登場する特攻隊員の幽霊ヒロシだろいう。演じているのは加瀬亮。この役は主人公の空想が生み出した存在のように見えて、実際にそれを暗示するシーンも劇中に出てくるのだが、そのわりには主人公の意志とは無関係に自立的に行動しているような部分もある。ヒロシは映画に登場する「死」の象徴だが、死んでいながら生きているという矛盾した存在でもある。主人公に寄り添う幽霊が登場する映画はこれまでにもあったが、その中でもヒロシは印象に残るものとなっている。

 思春期の少年少女を主人公にした、純粋で真っ直ぐなラブストーリー。子供の恋愛ごっこみたいな物語ではあるが、子供同士の恋愛でしか生じ得ない輝きがここにはある。

(原題:Restless)

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12月23日公開予定 TOHOシネマズシャンテ、シネマライズ
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 協力:樂舎
2011年|1時間30分|アメリカ|カラー|ビスタ|SDDS
関連ホームページ:http://www.eien-bokutachi.jp/.
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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