家族の庭

2011/10/14 京橋テアトル試写室
普通の人たちの普通の生活が織りなす人生の光と影。
老いることの楽しさと老いることの恐怖。by K. Hattori

Kazokunoniwa  『秘密と嘘』(1996)でカンヌ映画祭のパルムドールを受賞し、『ヴェラ・ドレイク』(2004)でヴェネチア映画祭金獅子賞を受賞しているマイク・リーの新作。前作『ハッピー・ゴー・ラッキー』(2008)が映画再上映という形でしか日本の観客の目に触れなかったので、今回この新作(2010年製作)が映画館で上映されるのは喜ばしい。

 地質学者で建設現場の事前調査を仕事にしているトムと、病院で心理カウンセラーをしているジェリーの物語だ。映画は全体を春夏秋冬の四季で区切り、それぞれの季節ごとに、ひとまとまりのエピソードを紹介しては次の季節に進んでいく。春夏秋冬がそのまま、この映画全体の起承転結の構成に該当しているのだ。物語はトムとジェリーの夫婦を中心に、息子との関係、長年の友人メアリーとの関係などがからみながら進行して行く。エピソードが積み重ねられていくうちに、少しずつ明らかになって行くのは夫婦のこれまでの暮らしぶり。カウンターカルチャーやヒッピー文化の中で青春時代を過ごした人たちが、今まさに老いを迎えているという時代の流れ。「ビートルズはどうだった?」と尋ねるメアリーに、トムの兄が「俺はエルビスの世代だ」とボソリと答えるシーンが面白い。

 映画の中心にいるのはトムとジェリーの夫婦だが、この映画の本当の主役と呼べるのは、彼らの友人メアリーだろう。彼女は春夏秋冬4つのエピソードすべてに登場し、トムとジェリーの生活や感情が比較的安定しているのに対して、メアリーのそれはじつに浮き沈みが激しい。それを象徴するのが、彼女が購入する赤い小型車の扱い。春のエピソードでは、車を持たない彼女が新しい車を買う話をしている。そして夏のエピソードで自慢の愛車が登場し、最後のエピソードではその車を手放している。

 トラブルメーカーであるメアリーを演じているレスリー・マンヴィルは、この作品でリー作品には9本目の出演。リーハーサルを積み重ねて台詞や芝居を作っていくリー作品には常連が多いのだが、その中でも彼女の出演本数は際立って多い。何しろリー監督はこれが長編11作目なのだ。そのうち9本に出ているというのは、ほとんどの作品に出ていると言っても過言ではない。それだけ監督に信頼されているということなのだろう。大きな事件が起きる映画ではないが、日常の中にある小さな出来事の中から、登場人物達の個性が浮かび上がってくる様子はスリリングだ。

 不眠症の患者役で、『ヴェラ・ドレイク』のイメルダ・スタウントンが再登場。「あなたの幸福度は10段階で何点?」と聞かれて仏頂面のまま即座に「1点」と答えるあたりの呼吸に、不幸な女性だなぁと思いながらついクスクス笑ってしまった。不幸の中にあるおかしみ、幸せの中にある陰り。陰影に富む普通の人生の面白さを丁寧に描き、観た人に忘れがたい印象を残す作品だと思う。

(原題:Another Year)

Tweet
11月5日公開予定 銀座テアトルシネマ
配給:ツイン 宣伝:樂舎
2010年|2時間10分|イギリス|カラー|スコープサイズ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://kazokunoniwa.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:家族の庭
サントラCD:Another Year
関連DVD:マイク・リー監督
関連DVD:ジム・ブロードベント
関連DVD:ルース・シーン
関連DVD:レスリー・マンヴィル
ホームページ
ホームページへ