GOMORRA

ゴモラ

2011/09/29 松竹試写室
イタリアの犯罪組織カモッラの内部を暴く実録犯罪映画。
リアルだがまるで感情移入できない。by K. Hattori

Gomorra  シチリアのコーザ・ノストラなどと並んでイタリアの4大マフィアと呼ばれるカモッラの現状を、入念な内部取材をもとに描き出したロベルト・サヴィアーノのノンフィクション小説「死都ゴモラ/世界の裏側を支配する暗黒帝国」の映画化。タイトルの『ゴモラ』はウルトラマンに出てくる古代怪獣ではない。これはカモッラ(Camorra)のもじりであり、旧約聖書でソドムと共に滅ぼされた悪徳の都の名前でもある。カモッラはナポリを拠点とする古くからの犯罪組織で、その組織網は合法と非合法とを問わず、地域の経済活動や暮らしのすべてに影響力を持っている。映画はそれを複数の視点から描いているが、どれも組織末端の構成員やその周辺にいる人たちの目から描かれているため、組織の全体像がわかりにくい。全体が有機的につながるひとつの犯罪組織ではなく、いろいろな犯罪に関わっている大勢の人たちの話に見えてしまうのだ。しかしこうした一見ばらばらな組織に枝分かれしていることも、現在の犯罪組織の特徴なのかもしれない。そこには中心がなく、絶対的な権力を握る大物のボスや黒幕もいない。それぞれの小さな縄張りを持つ組織が互いにつながりあって、全体としては大きな組織になっているのだろうか。

 映画は日焼けサロンで数人の客が前触れもなく射殺される血なまぐさい場面から始まり、その後もどんどん人が死んでいく。しかしこの映画は人の死がいかにも軽い。たいていの映画ではどんな形であれ、人の死はドラマのクライマックスやターニングポイントになったりするのが常だが、この映画ではそうしたことがほとんどない。死は日常のすぐ延長の、誰にでも手が届く範囲にあるありふれた現実であり、道で転んで膝を擦りむいた程度の痛みしか感じさせないのだ。もっともこの映画も個々の人物のエピソードを見ていけば、人の死が個々の登場人物にとって大きな意味を持つものになっている。何よりもそれは、死んでしまった本人にとっては大きな事件だ。(この映画の中ではエピソードの中核となる何人かの人物が命を落とす。)その人物の周囲にいた人にとっても、それは自分と組織との関係を問い直す大きな試金石であり、ある者はその事件をきっかけに組織により深くコミットするようになり、別のある者は組織から離れようと心を決める。しかしこの映画は複数のエピソードが同時進行して行く群像劇なので、そうした人生の岐路はすべて他人事として淡々と描かれてしまうのだ。

 強大な犯罪組織の中で起きる抗争を描いている点で、これは確かに『ゴッドファーザー』に似ているし、犯罪の巣窟のような場所でギャングとして生きることしか許されない子供たちの成長を描いている点で『シティ・オブ・ゴッド』にも似ている。だがこの映画のドライなタッチを観てしまうと、『ゴッドファーザー』も『シティ・オブ・ゴッド』もやたらと湿っぽくて古くさい映画に思えてしまう。

(原題:Gomorra)

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10月公開予定 渋谷シアター・イメージフォーラム
配給:紀伊國屋書店、マーメイドフィルム
宣伝:VALERIA 配給協力:(社)コミュニティシネマセンター
2008年|2時間15分|イタリア|カラー|ヴィスタ|DOLBY DIGITAL
関連ホームページ:http://www.eiganokuni.com/gomorra/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ゴモラ
原作:死都ゴモラ―世界の裏側を支配する暗黒帝国
関連DVD:マッテオ・ガッローネ監督
関連DVD:トニ・セルヴィッロ
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