ヴァンパイア・ストーリーズ

BROTHERS

2011/09/28 relationsデジタル試写室
二十歳の誕生日を迎える日、青年はヴァンパイアになる。
若手イケメン俳優による和製吸血鬼映画。by K. Hattori

Vs_brothers  大学サークルの小旅行で突然気分が悪くなって昏倒し、妹のミドリに付き添われて一足先に東京に戻ったセイ。だがふたりは翌朝のニュースで、昨日まで一緒にいた仲間たちのうち4人が変死し、2人が行方不明になったことを知る。そんな彼らの前に現れたのは、5年前の二十歳の誕生日に突然家を飛び出し行方不明になっていた兄のアイ。再び家族と一緒に暮らしたいと言うアイは、弟のセイにとんでもない事実を告白する。じつはアイとセイは太古から伝わるヴァンパイアの末裔であり、セイも二十歳の誕生日になれば体内のヴァンパイアの血が覚醒すると言うのだ。誕生日までは7日。完全な覚醒前に人間の血を飲まない限り、セイは血の力に支配されて理性を失った怪物になってしまう。だがアイが自分の仲間たちの血を吸って殺した張本人だと知って、セイは自分の中で目覚めつつあるヴァンパイアの血に逆らおうとするのだった……。

 シドニー・ルメットの著書「メイキング・ムービー」の中に、ドラマ形式のジャンル分けの話が出てくる。ドラマには笑いを目的とした喜劇とファルス(笑劇)があり、涙を目的とした悲劇とメロドラマがある。喜劇と悲劇は人間誰しもが持つ内面の葛藤から生まれるドラマであり、ファルスとメロドラマは事件が人物の外側から主人公に降りかかってくることで起きる。こうした定義は演劇論や作劇術の教科書が定義しているものとは違うのかもしれないが、なかなか気の利いた定義だと思う。何よりも喜劇とファルス、悲劇とメロドラマという似て非なるものを、ドラマの根が主人公の内部にあるか、外部にあるかで明確に区分できるのがいい。

 映画『ヴァンパイア・ストーリーズ BROTHERS』は、こうした定義に従えばメロドラマに該当する作品だ。物語の主人公はヴァンパイアの血が目覚め始めたセイだが、この肉体の変化は彼の内部で起きていることであるとしても、彼にとっては外部から訪れた事件だ。物語はヴァンパイアの血だの純血種だのという話をだしてもったいぶってはいるが、何のことはない、話の筋立ては難病ものと大差がないのだ。突然の体調不調。主人公は自分の身体に大きな変化が起きていることを知る。セイの前に現れて彼の血統の話をする兄アイは、難病ものにおける医者の役回り。主人公に残された時間はあとわずかしかない。仲間の死。生き別れの兄。死んだ両親の秘密。血のつながらない妹との兄妹愛。すべてメロドラマ的な大仕掛けだ。

 メロドラマ的な枠組みの中でも、主人公の内面的な葛藤にフォーカスして行けばそこに悲劇は生まれる。しかしこの映画は主人公をそこまで追い込むことなく、メロドラマ的お膳立ての中で揉みくちゃにされながら漂う様子を描いて終わりにしてしまった。主人公の内面的な葛藤が描かれない映画には、ストーリーはあってもドラマがない。映画を観終わっても薄っぺらな印象しか残らない。

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10月8日公開予定 ユナイテッド・シネマ豊洲
配給:ブロスタTV、Thanks Lab.
2011年|1時間18分|日本|カラー
関連ホームページ:http://vs-movie.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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