アジアの純真

2011/09/17 サンプルDVD
旧日本軍の毒ガスを手に入れた高校生カップルの暴走旅行。
でも移動手段は自転車。夜は道で野宿。by K. Hattori

Pureasia  小泉首相が訪朝したのを機に、北朝鮮が日本人拉致被害者の存在を初めて公式に認めた2002年秋。日本ではそれまでの北朝鮮に対する用心深く遠慮がちな報道が姿を消し、テロ国家北朝鮮に対する猛烈なバッシングが吹き荒れた。北朝鮮系の団体や企業、民族学校などに対する嫌がらせも相次いだが、それは北朝鮮バッシングの中に埋没した。そんな空気の中で、ひとりの在日朝鮮人少女が殺される。朝の通勤通学ラッシュ時間のことだ。駅の近くの人通りの多い道。2人組の若い男から執拗な嫌がらせを受ける民族服姿の少女を、誰も助けようとしなかった。少女は自力で脱出しようと反撃し、逆上した相手にナイフで刺し殺された。この時、ひとりの少年が事件の一部始終を見ていた。彼もまた少女を助けなかったが、彼が他の通行人と違ったのは、彼が少女と面識があったこと。ほんの数日前に不良にからまれていたところを、助けてくれたのが彼女だったのだ。彼女は自分を助けてくれたのに、自分は彼女を見殺しにした……。そんなことで自分を責める彼の前に現れたのは、死んだ少女と瓜二つの少女。彼女は殺された少女の双子の妹だった。少年は彼女と一緒に、工事現場で発見された旧日本軍の毒ガスを手に入れることに成功するのだった……。

 2009年に完成したものの、内容があまりに過激なので劇場公開できずにいた……という曰く付きの作品。確かにこれは、かなり不穏な映画だ。この社会に不満を持つ高校生カップルが、日常の閉塞感を打破するために毒ガスをばらまくという映画が、穏当な映画であり得るはずがない。しかし僕はこの映画を、大いに共感しながら見ることができた。いやおそらく、この映画に共感する人は多いと思うのだ。青春時代に「こんな世の中ぶっ壊れちまえ!」と思った人は多いはずだが、この映画はそれを映画の中で実現してくれる。これほど痛快なことがあるだろうか。世の中をぶっ壊す理由なんてどうだっていい。この映画の中でそれは、日本全体を覆う全体主義的なムードや、目の前の問題に見て見ぬ振りを決め込む卑怯卑劣な大人たちの振る舞いに対する「NO!」の声ということになっているが、こんな事はたぶん言い訳だろうと僕は思う。世の中をぶっ壊すことは、何かを成し遂げるための手段ではない。それはフロイトが言うところの「タナトス(死への欲動)」であり、人間の本能に刻み込まれた死と破壊への衝動。ぶっ壊すこと自体が目的であり、「社会のため」「正義のため」「復讐のため」といった大義名分こそがむしろ破壊のための手段になっているのだ。映画の中には大義名分を見つけられなかった青年が、毒ガスを抱えたまま自滅して行くエピソードが挿入されている。それに比べれば、他人に向けて毒ガスを投げつける主人公たちのなんと健全なことか!

 しかし閉塞感をぶち破るための暴力は、次なる閉塞感を生み出す。暴力は際限なくエスカレートするのだ。

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10月15日公開予定 新宿K's cinema
配給:ドッグシュガームービーズ 宣伝:ブラウニー
2009年|1時間48|日本|白黒|サイズ|サウンド
関連ホームページ:http://www.dogsugar.co.jp/pureasia
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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