別れさせ屋のアレックスには、決して譲れないポリシーがある。それは「不幸な女だけをターゲットにする」ということ。つまらない男と付き合って決して幸せではないくせに、我が身の不幸に気づかない女性は多い。アレックスはそんな女性の心をノックして、彼女たちに「新しい出会いで幸せになれる自分」の姿を教えるのだ。ターゲットとの接触はキスまでで、それ以上の関係はなし。アレックスはこの方法で成功率100%を誇る凄腕なのだ。だがそんな彼にも弱点がある。たちの悪い借金が積み重なって、即時返済を迫られているのだ。そんな彼に一件の新しい依頼が届く。ターゲットは金持ちのお嬢様ジュリエット。近々結婚を控える相手との関係を壊してほしいとの以来だが、はたして彼女は「不幸な女」と言えるのか? しかし背に腹は替えられない。アレックスは高額報酬につられ、ポリシーを曲げて彼女を誘惑することに。結婚式は10日後。しかしこれが、じつに骨の折れる仕事となった……。
主演はロマン・デュリスとヴァネッサ・パラディ。主人公は「別れさせ屋」だが、これは昔からある「結婚詐欺師映画」のバリエーションだろう。相手の情報を調べた上で、自分の身分を偽って相手に接近。手を変え品を変え誘惑しているうちに、相手をカモにするはずの詐欺師は相手の魅力にすっかり参ってしまう。商売抜きで彼女に惚れ込んでしまう詐欺師だが、互いの気持ちが通じ合ったと思った時に詐欺師の正体がばれてしまって……というのが定番の展開。これは主人公の詐欺師が男だと、女性の気持ちをもてあそんでいるように見えてしまうので、たいてい詐欺師は女性になっている。古くはプレストン・スタージェスの『レディ・イヴ』(1941)があるし、最近なら韓国映画『彼女を信じないでください』(2004)も似たパターン。本作『ハートブレイカー』もこうしたパターンを丸ごとなぞっていくのだが、主人公が男性でカモが女性になっているので、あちこちにいろいろな仕掛けをして、女性の方が一枚も二枚もうわてに見えるように作ってある。
ラブコメだから映画の最後には主人公たちが結ばれるわけだが、この映画はヒロインが誰から見ても文句のない結婚を間近に控えているというのがミソ。これがタイムリミットのサスペンスになると同時に、主人公アレックスの仕掛けが失敗に終わったとしても、それはそれで一向に構わないという気持ちにさせるのだ。たぶん主人公たちは結ばれるだろうが、そこに絶対の確信があるわけでもない……という宙ぶらりんの状態が、映画のサスペンスになる。ヒロインの父親がなぜ仕事を依頼したのかというミステリーと合わせて、この映画の推進力になる部分だ。アレックスの姉夫婦が、この映画にスクリューボール・コメディのような要素を加えているのもいい。次々出てくる変装にはつい笑ってしまう。『ダーティ・ダンシング』の引用も楽しい。
(原題:L'arnacoeur)
DVD:ハートブレイカー
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