MADE IN JAPAN

― こらッ! ―

2011/09/02 ショウゲート試写室
高橋伴明監督が「家族」という幻想の消失を描いたドラマ
製作は京都造形芸術大学映画学科。by K. Hattori

Madeinjapan  杉田家のおばあちゃんが亡くなって、杉田家の崩壊が始まった。葬儀が終わると、母を亡くした父・完治は部屋に閉じこもって昼間から酒浸り。会社にも行かず、母親の遺品に囲まれて一日中過ごしている。母の春子はデイケアサービスの仕事にのめり込み、夫の醜態をまるで無視している。娘の雛子はそんな家から抜け出したくて仕方が無い。春子がデイケアに通っているのは、雛子の幼なじみでもある健一の家。足が悪くてひとりでは身動きが取れない彼を、両親亡き後、姉の貴子が世話しているのだ。やがて貴子は、弟を置き去りにして姿を消す。すると春子は突然、この状況にウキウキしはじめるのだった……。

 「北白川派映画芸術運動第二弾」と称している映画だが、それはこの映画が京都造形芸術大学の映画学科で製作されていることにちなんでいる。大学の所在地が、京都市左京区北白川なのだ。北白川派の映画は、大学の教授や講師として教えているプロの映画人と、大学で映画を学んでいる学生を中心に、プロの俳優やスタッフも交えて、劇場公開できるクオリティの長編劇映画を毎年1本ずつ製作してゆくプロジェクト。第1弾作品が故・木村威夫監督の『黄金花 ―秘すれば花、死すれば蝶―』(08)で、本作以降も3本目の作品を製作中で、4本目の企画中だという。

 撮影所の人材育成機能が事実上機能していない中で、映画学校が「プロの現場」を作ってOJTを行うというのは画期的。映画学校が映画製作に協力する名目で学生を外部の現場に送り出すのではなく、学校側が製作のイニシアチブを握ってプロに映画を作らせる例は少ないと思う。まだ始まったばかりの「運動」なのでこれが今後どのような実を結かはわからないが、とりあえず継続し続けていってほしいものだと思う。ちなみに本作の撮影日数は20日、製作費は500万円だとのこと。脚本は京都造形大の学生だった和間千尋が、学生時代に書いたものだという。監督は同大学で教授として教鞭を執る高橋伴明。雛子を演じた大西礼芳(あやか)や、健一役の関谷和希、友人の珠子を演じる伊藤菜月子(なつこ)などは、大学の在学生や卒業生だ。

 物語は登場人物の背景などが見えにくいところも多いのだが、これも家族の有り様のひとつのリアルな姿であろうという気にさせられる。「家族」とか「親子」「夫婦」という約束事が、一部では既に消え去ろうとしているのだ。杉田家はおばあちゃんが生きている間は「家族」の関係を共有できたが、おばあちゃんが消えると同時にその関係性は消失する。健一と貴子の姉弟は、姉の貴子が約束事をかなぐり捨てて出奔しても、健一はけろりとしていてまるで平気な顔。彼には既に「家族」という幻想などなく、あるのは相互利害関係の中で自分がいかに生きていくかというサバイバル術でしかない。雛子が「親孝行」という呪縛を、安全ピンひとつで解き放つシーンは爽快だ。

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9月24日公開予定 京都シネマ
10月1日公開予定 渋谷ユーロスペース
配給・宣伝:北白川派、マジックアワー、京都造形芸術大学映画学科
2010年|1時間24分|日本|カラー|16:9|ステレオ
関連ホームページ:http://www.kitashira.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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