アクシデント

2011/09/02 シネマート試写室
事故を装って人を殺す仕事人たちが「事故」に襲われる。
これは偶然なのか。それとも……。by K. Hattori

Accident  突然人間を襲う不慮の事故。映画やドラマの中では毎日大勢の人が殺されているが、実際には事故で亡くなる人の方がよほど多いのだ。見ず知らずの誰かに殺される心配をするより、交通事故や階段からの転落に気を配った方が長生きできるはず。しかしこの映画に出てくるのは、そんな事故を装って人を殺すプロフェッショナルたちだ。リーダーのブレインの陣頭指揮下、入念な調査と下準備を積み重ね、狙ったターゲットは決して逃さないプロ集団。だがある現場でひとつの仕事を仕上げた直後、思いがけない「事故」が起きる。現場に駆けつけたブレインに向かって、事故に巻き込まれた部下は「これは事故なのか?」とつぶやいて息絶える。これは事故なのか? それとも事故を装って誰かが自分たちを殺そうとしているのだろうか? ブレインが自宅に戻ると、注意深くロックしたはずの自宅の鍵はこじ開けられ、部屋の中が荒らされていた。空き巣を装って、誰かが部屋を調べていったのか? ブレインはその正体を探るべく調査を始めるが、視線の先にはひとりの男が浮かび上がってきた……。

 『エグザイル/絆』や『冷たい雨に撃て、約束の弾丸を』のジョニー・トーがプロデュースし、『ドッグ・バイト・ドッグ』『軍鶏 Shamo』のソイ・チェンが監督したサスペンス・スリラー映画。用意周到で回りくどい手段を使って人が事故死させられるというアイデアは、死の運命に捕らえられた人間が次々残酷な死を迎える『ファイナル・デスティネーション』シリーズ(最新作は『ファイナル・デッドブリッジ』)にも似ている。しかしこの映画はそれを超自然的な死神の罠ではなく、人間が入念な下調べとリハーサルを繰り返すことで演出した「事故」に置き換える。偶然の事故は、偶然には起こらない。映画は導入部で、主人公たちが手掛けた「事故」の鮮やかな手並みを見せつける。まるで精密機械のようなチームワークによって、ターゲットは事故現場に導かれ、自らの手で事故に至る最後の引き金を引く。そして次に映画は、この華麗な仕事がいかに地道な下準備の上に成り立っているのかを暴いてゆく。条件が揃うまで、何度でも仕事を中止するリーダーと、それに従う部下たちの忍耐力。この映画の中で一番格好いい場面であり、このシーンに惚れ込んでしまうからこそ、映画後半の主人公の行動に説得力が生まれている。

 主演のルイス・クーが、心の中を周囲に見せない用心深くて寡黙なリーダーを静かに熱演している。周囲の人間が素直に感情を表に出すのに比べて、この男のなんと冷たいことか。しかし映画を観ている観客は、この男がその時々に何を考え、どんな気持ちなのかが手に取るようにわかる。それはまず脚本が優れているからだろうし、ルイス・クー自身の演技力もあるだろう。ちょっとした動作のタイミングや目の動きで、主人公の動揺や焦り、感情の高ぶり、違和感、疑惑などを感じさせる。

(原題:ACCIDENT 意外)

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10月8日公開予定 新宿武蔵野館
配給:ブロードメディア・スタジオ
宣伝:フリーマン・オフィス 協力:東京フィルメックス
2009年|1時間26分|香港|カラー|シネマスコープ
関連ホームページ:http://www.accident-igai.net/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:アクシデント
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