はやぶさ

2011/08/04 スペースFS汐留
小惑星探査機「はやぶさ」の偉業を時系列で紹介する映画。
勉強にはなるがドラマの盛り上がりに欠ける。by K. Hattori

Hayabusa  2003年5月に打ち上げられ、小惑星イトカワから人類史上初となる地球圏外サンプルの回収に成功した小惑星探査機「はやぶさ」。幾度かのトラブルで一度は宇宙で行方不明になり、その後もエンジントラブルなどで地球への帰還が絶望視されながら、2010年6月はオーストラリアの砂漠にサンプルのカプセルが到着して無事回収されるという、宇宙開発大国であるアメリカやロシアですら成し遂げていない偉業を達成した。この出来事には日本中が熱狂し、世界中が驚いたのだが、映画業界もこの旬のネタに飛びついて数社が映画化に名乗りを上げた。その結果、20世紀フォックス、東映、松竹が映画化を決定。堤幸彦監督が竹内結子主演で撮り上げたこの映画が、競作3本のトップバッターとして10月から公開されることになった。

 「はやぶさ」が打ち上げられたのは2003年だが、物語は2002年の夏からスタートする。古本屋でアルバイトをしながら博士論文を書いている水沢恵は、宇宙科学研究所(現在のJAXA 宇宙航空研究開発機構)の的場に誘われて、「はやぶさ」のプロジェクトに関わるようになる。打ち上げが迫ってピリピリする研究所では、予算も時間も限られた中で、多くの人々が世界初のプロジェクトに向けて奮闘していた。そして2003年5月の打ち上げ。2005年11月には小惑星イトカワに着陸したが、離陸時に姿勢制御が不能になって通信が途絶えてしまう。しかしそれから2ヶ月ほどたって、奇跡的に通信が回復。残った燃料や設備を使って4年半がかりで地球へと帰還したのだった。

 映画は足かけ9年に渡る「はやぶさ」プロジェクトの全貌を、ほぼ時系列に描いていく構成。宇宙開発技術にまったく不案内な観客向けに、プロジェクトに後から参加した水沢というヒロインを広報担当者として置いたのは定石通り。しかし扱っている時間が長く、登場人物も多く、盛り込んでいるエピソードを均等に描いていることもあって、ドラマとしての盛り上がりに欠ける作品になっている。作り手の側が「事実」の前に萎縮して、「ここで一丁盛り上げてやるぞ!」というクライマックスがないまま映画が終わっているような印象を受けるのだ。

 9年を2時間20分に圧縮するという難しさはあるだろうし、事実は事実のまま曲げられないという制約もあるだろう。しかしクライマックスをどこに置くかを考え、そこから逆算してエピソードを組み立てていけば、2時間の映画の中に10年でも50年でもエピソードを突っ込めるのが映画ではないか。例えば一番手っ取り早いのは、回想形式にすることだ。もちろんこの映画はそうした可能性も考えた上で時系列の構成を選んだのだろうし、映画にこれが決まりという正解はないから、これはこれでひとつの考え方。東映版と松竹版も製作中のはずだが、それらがどのようなアプローチで同じモチーフに挑むのかが楽しみだ。

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10月1日公開予定 全国ロードショー
配給:20世紀フォックス映画 パブリシティ:P2、寿
2011年|2時間20分|日本|カラー|サイズ|サウンド
関連ホームページ:http://movies.foxjapan.com/hayabusa/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:はやぶさ
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