デンデラ

2011/05/13 東映第1試写室
豪華出演陣による血まみれのスプラッターアクション映画。
姥捨て山の向こうに現代日本の姿が見える。by K. Hattori

Dendera  その村には残酷な掟があった。70歳になった老人は口減らしのため、村を離れた山に捨てられねばならない。それは貧しい村が生き残っていくため、遠い昔から守られてきた悲しい掟だ。人は生まれ、いつか必ず死ぬ。そんなごく自然な営みの中に、姥捨てという村の習慣がある。斎藤カユも70歳になり、家族に背負われて山の奥深くにあるお参り場に捨てられた。激しい寒さの中で「極楽浄土」という言葉を何度もつぶやきながら、いつしか彼女の意識は遠ざかっていく。しかしそれは死ではなかった。彼女は以前に同じように山に捨てられた老婆たちに助けられ、彼女たちが山の奥深くで自活する「デンデラ」という集落に運び込まれたのだ。デンデラの長老は100歳になる三ツ屋メイ。彼女は姥捨ての不合理に憤り、30年前に自分を捨てた村人たちに復讐するためデンデラを作ったのだ。カユの参加で、デンデラの住人はちょうど50人。今こそ機は熟した。老婆たちは手に手に得物を持って、復讐のために村に行進して行こうとするのだが……。

 佐藤友哉の同名小説を、天願大介が脚色監督した異色のアクション映画。カユ役の浅丘ルリ子、メイ役の草笛光子以下、倍賞美津子、山本陽子など、大ベテランの女優たちが雪山の中で血みどろの死闘を演じる。当面の敵は、餌不足で冬眠しないまま山中を徘徊する「穴持たず」の巨大ヒグマ。デンデラに侵入したヒグマの前に、あり合わせの武器しか持ち合わせない老婆たちは大きな生き餌状態。巨大なパワーを持つ爪と牙にあっという間に引き裂かれ、文字通り手足をもがれた細切れの挽肉になってしまう。人間としての威信をかけて、ヒグマによる蹂躙を阻止しようとする老女たち。だが自然の猛威の権化のようなヒグマは、情け容赦なく老女たちに襲いかかる。かつては日本を代表する美女と呼ばれた大女優たちに老女を、しかも多くの人に実年齢以上の高齢者を演じさせるのもかなりのタブーだと思うが、映画後半のヒグマとの戦いには度肝を抜かれた。たぶん出演している女優さんたちはこの映画1本だけで、これまでの芸能生活で浴びたすべてを合わせたより大量の血糊を浴びたことだろう。その姿は壮絶を通り越して、もはやシュールですらある。

 この映画は一種の寓話であり、いろいろな読み取り方ができると思う。例えば僕はここに、世の中の矛盾を弱者にしわ寄せし、そこから目をそらせて見て見ぬふりする社会の姿を見る。人間は自分自身の安寧を守るため、自分とは無関係な他人の不幸からあえて目を背けるのだ。そこでどれだけの人が苦しもうと、どれだけの嘆きと恨みの声が巻き起ころうと、自分と直接関わりがないならそれは無いのと同じこと。我々は世界の中にある貧しさに目を閉じ、紛争地帯で傷ついている人たちのことを無視し、今また地震や津波で傷ついている人たちのことも忘れようとしている。カユはそんな世の中全体に、彼女なりのやり方で復讐するのだ。

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6月25日公開予定 全国東映系
配給:東映
2011年|1時間58分|日本|カラー
関連ホームページ:http://dendera.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:デンデラ
原作:デンデラ(佐藤友哉)
関連DVD:天願大介
関連DVD:浅丘ルリ子
関連DVD:倍賞美津子
関連DVD:山本陽子
関連DVD:草笛光子
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